天国から来た悪魔
第十一話 フェアリーの秘密?


「ミル。あなたは宿題をやらなくて良いのですか」
 テーブルを挟んで座っているミアは、紅茶を楽しむように瞳を閉じながら冷たい声で聞いた。いつものミルならばこれだけで縮み上がってしまうのだが、今日はそんなことを言っていられない。ミルは躰を小刻みに震わせながら、無理をして紅茶をすすっている。
 ミアが下界に降りてきてから既に三日が過ぎていた。その間、ミアは隆のことを独り占めしている状態だった。隆も何故かミアのことを相手にしてミルを相手にしてくれないので、せめてティータイムくらいは二人の邪魔をしなければ自分の存在を忘れられてしまいそうで怖かったのだ。
 そんな、ミルの気持ちなど知りもしない脳天気な声が、リビングルームの中に響き渡った。
「そんなことは良いの〜。 ミアちゃんも、そんなツンツンしないでミュウ・ミュウの入れた紅茶をみんなで楽しく飲むの〜」
 ミュウが、テーブルの上でにこやかにティーポットをミアに向けている。そんな姿をミアは少し呆れ顔で見つめていた。
「……ありがとう」
 ミアの怪訝そうな顔も良くわかる。ミュウがここにいるからと言うわけではない、問題はその格好だ。今日のミュウの衣装は、この間のバニーガールとは違い。ファーの付いたブラジャーとこれまたファーの付いたミニスカートだった。頭にはネコ耳を付け、手足には肉球の付いた手袋と靴を着けているところを見ると猫の格好らしい。お尻にはご丁寧に尻尾まで付いている。
「ミ…ミュウちゃん。私にも、もう一杯頂戴……」
「はいなの〜。 ミルちゃんも喉が乾いてたのね〜。 ミュウ・ミュウの紅茶いっぱい飲むの〜」
 ティーポットを持ち上げてパタパタとミルの所へ寄ってきて紅茶を入れてくれる。その姿は確かに可愛いらしいのだが、とても妖精には見えない。
 そんな異常な状況の中に隆はいた。
「おい……」
「お砂糖は一つで良いのね。クッキーも食べるの〜。 これもミュウ・ミュウの自信作なの〜。」
 完全に隆を無視して、満面の笑みを浮かべながらクッキーを差し出す。ミルは引きつった笑顔でクッキーをつまみ上げる。本当に妖精は可愛いと何時も思う。しかし、ミュウのこの格好だけはいただけない、小さいからまだしも、これでミル達と同じ大きさだったらただのイタイ女の子になってしまう。
「ミュウちゃん。その格好も、今流行ってるの?」
「まだ流行ってないけどこれからミュウ・ミュウが流行らせるの〜♪ 凄く可愛いの〜。 だからきっと流行るの〜♪」
 妖精のイメージを壊している事に気が付いていないところが凄い。一応、何時決まったのかは解らないが、神人にしても妖精にしても人間のイメージを壊してはいけないと言う決まりがあるのに、それをミュウは理解していない様子だ。しかし、こんなミュウだが、フェアリー族の中でも天才と呼ばれる妖精なのだ。
「おい……」
 引きつった顔をしている隆がもう一度皆に声をかけた。隆にしては珍しく小さい声だったので今まで誰も気が付かなかった。
「どうしたんですか隆様? 元気ないみたいですけど」
 そんな、隆のことを心配そうにミルが見つめ返した。別に、元気がないわけではない。このテーブルを囲んでいる異常な状況に不信感を募らせているだけだ。
「だああぁぁ……ここは、いったいどこなんだ。何故、人間様より変な生き物の方が、人口密度が高いんだ」
 確かに、人間の隆一人に対して、人外の生物が三人と言うのも、人間界ではあり得ない状況だ。しかし、そんなことを気にしている者は隆以外にいない様子だ。
「もう、うるさい人間なの〜……お茶くらい静かに飲めないのなの〜」
「ええい、うるさい。おい、そこのチビ! お前は二度と俺に会わないんじゃなかったのか? それなのに、何故ここにいる!」
「失礼な人間なの〜! チビじゃなくてミュウ・ミュウって可愛い名前がちゃんとあるの〜! お前には特別ミュウ・ミュウ様と呼ばせてやるから、耳をかっぽじって良く聞きやがれなの〜! いいか人間。別にお前に会いに来たんじゃないの。ミュウ・ミュウはミルちゃんに会いに来たの。そこにたまたま人間がいただけなの。お前には用がないからあっち行けなの〜!」
「何を言いやがる。このチビッ!」
「チビじゃないの〜!!!」
 隆が、こんなにムキになるのも珍しかったが、こんな小さいミュウに文句を言っている姿は何処か滑稽だ。
 そんな、にらみ合う二人の中に突然ミアが割って入った。
「ミュウ、口を慎みなさい! これ以上、隆様に無礼な口を聞くと私が許しませんよ」
「……!!! 驚きなの〜! ミアちゃんどうしちゃったの? 何で、ミアちゃんが人間なんかの肩を持つの? ミルちゃん、ミアちゃんがおかしくなっちゃったの〜……」
 ミアが隆側に付いているのがミュウには理解できなかった。神人をも虜にさせてしまう性の強さを持っているとは知らないミュウは、何とかミアを元に戻そうと説得にあたる。
「ミアちゃん目を覚ますの。ミルちゃんは『鏡の契約』があるから言うこと聞いているのは解るけど、ミアちゃんほどの神人が何でこんな人間をかばうか解らないの〜……」
「いいから、黙りさい。あなたには解らない事なんですから……隆様のすばらしさを体験しない限り理解できません」
 ますます言っていることが解らない。ミルに助け船を求めようと視線を移したが、ミルは俯くだけで何も答えてくれなかった。
「みんなおかしいいの……こら人間! ミアちゃんに何したの! ミアちゃんを元に戻せなの〜」
 ミュウは、テーブルを蹴ると隆の目の前に飛び立ち、睨み付ける。きっともの凄い形相をしているつもりなのだろうが、スケールが小さいのと可愛らしい顔がじゃまをして全く迫力がない。何だかそんなミュウに睨まれても微笑ましくなるだけで、怒っている自分が情けなくなってきたのか隆は深い溜め息を付いた。
「はあぁぁ〜」
「うううぅぅ……ミュウ・ミュウの睨みが効かないの〜……フェアリーの中じゃミュウ・ミュウが一番恐いと怖れられてるのにぃ〜……なかなか手強い奴なの〜……でも、負けないの〜」
 意外にも、驚かない隆に落ち込んでいるらしい。フェアリー族の中じゃどうか解らないが、こんな可愛いミュウに睨まれても誰も怖がらないとミルも心の中で思っていた。
 それよりも……
「あの〜ミュウちゃん……」
「黙ってるのミルちゃん! 今は、ミュウ・ミュウと人間の勝負の真っ最中なの〜」
「でも……あのね」
「何なのミルちゃ……きゃっ」
 振り返ろうとしたミュウが突然悲鳴を上げた。そっと手を伸ばしていたミアがミュウを捕まえてしまったからだ。その事を何とか教えようとしていたのだが、ミアに睨まれてハッキリ言えなかったのだ。
「ミュウ。これ以上の無礼は許さないと言ったはずです」
「きゃあぁぁ……ミアちゃん何するの。ミュウ・ミュウはミアちゃんを助けようとあの人間と戦っていたのにぃ〜……やい人間! 卑怯だぞ! ミアちゃんを使ってミュウ・ミュウを捕まえるなんて」
 呆れるというか、もう疲れてしまった。どうもペースがつかめない。人外の生物を相手にしているのが、こんなに疲れるとは思わなかった。
「おいミア、うるさいから離してやれ」
 何時までも騒いでいるミュウを哀れに思ったのか、離してやるよう指示を与えたが、ミアは怪しい笑みを浮かべ、ミュウの口を押さえつけて隆を見つめるのだった。
「そうはいきません。それよりも隆様。紅茶もう一杯いかがですか。いえ、是非飲んで頂きたいのですが……ミル、紅茶を入れてきなさい」
 突然脈略もないことを言い出した。しかし、ミアの瞳は何かをたくらんでいる瞳をしている。ミルもそれに気が付いたようだが、ミアに逆らえるわけがない。
 ミルは少し脅えながらティーポットを持って席を立った。
「お姉ちゃん……あの……」
「いいから早くしなさい」
「おい、どういう事なんだ?」
「いえ、これから隆様に美味しい紅茶を飲んで頂こうと思っただけです。きっと人間界では味わえない、とても美味しい紅茶が出来上がると思いますのでもう少々お待ち下さい」
 優雅に瞳を動かして隆を流し見る。その仕草が何とも色っぽい。同じ姉妹でもミルとミアでは見た目も性格も全く違っている。
「ううううぅぅぅ……ううううぅぅぅぅ……」
 ミアの手元ではミュウが先程よりも激しく暴れている。それでもミアは涼しい顔をしてミュウを離そうとしない。
 そうこうしているうちに、ミルが新しいティーカップとポットを持って戻ってきた。隆の前にティーカップを置くと紅茶を注ぎ入れる。そんな仕草を隆は不思議そうに眺めていた。良い葉を揃えているつもりだがいつも飲み慣れている紅茶には変わりない。この香りからダージリンだろう。どこが人間界では味わえない物なのだろうか?
「もう少しお待ち下さい。直ぐにエッセンスを入れますので……」
 そう言うとミアは隆の横に立ちティーカップの上にミュウの躰を持って行くと口を押さえていた手を外した。その途端、ミュウが大騒ぎをし出したのだ。
「わあああぁぁぁ……やめるの〜そんなことしちゃいけないの〜、ミアちゃん正気に戻るの〜」
 何を騒いでいるのか解らないが、何だか少し脅えている。ミルはその姿を見るのが嫌なのか少し視線を外してこちらを見ようとしない。
 元々S性の強いミアがこの位騒がれてやめるわけがない、むしろその顔は喜んでいるようにも見える。
「往生際が悪いですよミュウ。素直に蜜を出しなさい」
 そう言うとミアの手がミュウの股間へと近づいていった。
「ミアちゃん、やめるの〜……やめてなの〜そんなことしないで……お願いなの〜」
 ミュウの声はミアには届いていなかった。ミアは人差し指を立てるとファーの着いたミニスカートの中へ入れた。最後の最後まで抵抗を見せていたミュウだったが、指が股間に当たった瞬間、ミュウの表情が一瞬でとろけたのだった。
「キュン……クゥゥン……」
 ミュウは顔を真っ赤にして、躰を仰け反らし可愛らしい悲鳴を上げた。
「はあぁぁん……ミアちゃん……ダメなの……そんなにしたら……あううぅぅぅ……」
 数回指を動かしただけでミュウの躰は痙攣した。これだけの事で絶頂を迎えてしまったらしい、驚くほど感じやすい躰だ。フェアリーとはそう言う者なのだろうか。性格はともかく、この可愛らしい顔に可愛らしい喘ぎ声。これで躰が大きければと隆は少し残念がるのだった。
 ミアは痙攣がやむのを待って指を離すとミニスカートに隠れたミュウの股間から、愛液が溢れだし、紅茶の中に落ちていった。まぁ溢れだしたと言っても、元々躰が小さいのでほんの僅かだが、比率から言えばかなりの量だろう。
 手の中でぐったりとしているミュウをテーブルに寝かせ、ティーカップを取りスプーンでかき混ぜる。ミュウの蜜の他は砂糖もレモンも入っていない。
「さぁ、隆様。この紅茶を飲んで下さいませ」
 恋する乙女の視線を送りながらミアが紅茶を勧めてくるので、先ずは香りを嗅いだ。
 すると鼻孔に触れた紅茶の香りが、先程までと全く違う。隆は、驚いたようにカップを受け取ると紅茶を口に運んでみる。ほんのりと薔薇の香りがする。ダージリンを入れてもらったはずなのにどうして薔薇の香りがするのだろう。しかも僅かながら甘みを感じる。やはりミュウから流れ落ちた愛液のせいなのだろうか……
 隆は、芳醇な香りを楽しみながら紅茶を口にした。
 薔薇の爽やかな香りが口の中に広がっていく。これはまさしく最高級のローズティーの味だ……いや、それ以上かも知れない。紅茶にはかなり凝っているため、色々と美味しい紅茶は飲んでいたのだが、これは比べものにならないほど美味だった。
「美味い。本当に美味いぞ……やっぱり、このチビのせいなのか」
「チビじゃないぞ。ミュウ・ミュウだと何回言ったら解るんだ!」
 先程まで快楽でのびていたミュウが、紅茶を口にした隆を睨み付けている。その瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
「……ヒドイの……ミアちゃんこんな奴にミュウ・ミュウのを……飲ませるなんて……もう、ミアちゃんなんて嫌いなの……もう……顔も見たくないのぉぉぉぉ〜……」
 言いたいことを叫んだミュウは、〈ゲートペンタクル〉があるミルの部屋へ飛んでいってしまった。何だか、前にも見た光景だが、今のは隆のせいじゃない。ミアのせいなので、がらにもなく少し心配してしまった。
「おい、あいつ大丈夫なのか……俺じゃなくてミアに怒ってるみたいだぞ」
「大丈夫です。10分もすれば怒りは治まっているでしょうから……今日は来ることはないと思いますが、そのうちまた来るでしょう」
「でも、かなり傷ついてたみたいだぞ」
「そんなにミュウの事が心配ですか? 隆様はやはりお優しい方なのですね」
「そんなことはないぞ。俺はあいつが来なくなってくれればいいと思ってるだけだ」
 そんなことを言われるとつい反発してしまうが、ミアもミルも隆の優しさに気付いているので、こんな隆を見ているのも可愛らしくて母性本能をくすぐられてしまう。
「そうですか……でも、ミュウはフェアリーなのですから、こんな小さな事を何時までも怒っている子ではありません。それに、本当に怒ってしまったのであれば、私に何らかの制裁を加えるでしょう。もしそうなったら私などひとたまりもありません」
「そうなのか……あのチビ、そんなに強いのか」
 意外な言葉に隆は少し驚いた。ミアの言葉にミルも頷いているので確かなのだろう。
「はい、フェアリーは自然界をコントロールする種族なので、私達天界人よりも大きな力を持っているのです……」
「そうなのか……」
 ミルから天界の話を聞いたときもそうだったが、ミアから聞くフェアリーの話も衝撃的な内容だった。
 ミル達天界の神人は主に、人間の人生に関わる仕事をしている。それとは別にミュウ達フェアリー族は、自然界に携わる仕事をしていると言うことだった。フェアリーの仕事は自然の平穏を保つ事で、これがまた大変なことなのだ。天界は生き物に携わる仕事をしている(人間の他にも動物や昆虫などの管理もしているが、動物などは人間よりは単純で管理しやすい)。しかし、自然界を操るには膨大なパワーが必要になってくるのだ。この力を比べるとミル達神人の力よりも数段強い力を持っている。
 だが、全体的管理は天界にいる神人が行っているのでどちらが上と言うわけではない。ミュウを見ていれば解るだろうが、緻密な管理などはフェアリー族には向いていないので自然界とのバランス管理などは神人の役目なのだ。
 そのためミアも、ミュウが怒ったら大変なことになると言ったのだ。しかし、自然界を操るためには、こんな小さな事を何時までも覚えていては大変なことになってしまう。自然を操るフェアリーが怒りっぽかったら、自然界は無茶苦茶になってしまうだろう。そのため、穏和なフェアリー族に自然界を任されることとなったのだ。
「あのチビそんな凄い仕事をしていたのか……確かに、あんな事ですぐ怒る奴に自然を管理させといたら大変なことになるわな」
「それに、フェアリーは色んな種族があるのです。地球にも色々な種族がいるのと同じですね。ミュウは、フェアリーの中で花を管理する一族なのです」
 だから紅茶が薔薇の香りになったのかと隆は思った。フェアリーは各種族が海を管理したり、山を管理したりと分けられている様子だった。
 しかし、ただそれを隆に説明するためにだけに紅茶を飲ませたとは考えづらい。
「で、何で俺にあいつのエキス入りの紅茶を飲ませたんだ。何か裏があるんだろう」
 それを解っていながら、平然と紅茶を飲むとは……今更言うことでもないが、かなり大胆な行動だ。
「はい……でも、隆様にとっても悪い事じゃありません。フェアリー族、特に花を管理するフェアリーの蜜は、生き物の生命力を強くしてくれる効果があるのです……それに精力も……」
 まぁこんな事だろうと思っていた。我慢できないほどではないが紅茶を飲んでから、やたら躰が熱くなっている。
 それを抑えつけているとトドメを刺すようにミアが隆に寄り添ってきた。ミアもそろそろ効き目が現れてくる頃だろうと知っているのだ。
「隆様……もうティータイムは終わりです……さぁこちらへ……」
 ミアは自分の魅力をフルに使って隆を誘惑してくる。深くスリットの入った黒いチャイナドレスから真っ白な脚を隆の膝に乗せ、大きな胸をすり寄せる。突然の変貌ぶりにミルは、口をパクパクさせて驚いていた。
「お…お姉ちゃんズルイ……隆様もズルイですよ。何でお姉ちゃんばっかりぃ……」
 ミアの顔を見れば何をしようとしているか解る。いや、ミュウの蜜入り紅茶を飲ませた時から想像はついた。それに、この三日間ずっとベッドルームに引きこもっているのだから想像するまでもない。それを邪魔するために、怖いのを我慢して部屋から出てきているのだから。
「うるさいですよミル! 貴女には勉強があるでしょう」
 表情とは裏腹に凛としいた声がミルの躰を萎縮させる。思わず下半身に嫌な物が込み上げてくるのを必死で我慢した。
「さぁ、早く部屋に戻って勉強しなさい! 今度こんな点数を取ったら、どうなるか解っていますね」
 それは解っている……解っているけどここで引き下がることは出来ない。これ以上隆を独り占めにされるのは嫌だし、このままでは隆をミアに取られてしまうおそれがある。
「でも……でも……え〜ん……隆様ぁ〜私もかまってくださいよぉ〜……こんなんじゃ勉強にも集中できませんからぁ〜」
 口を大きく開けてだだをこねる姿は、まるで子供のようだった。しかし、ミアはだだをこねれば話を聞いてくれる女ではない、むしろ怒りに油を注いだようなものだ。
「ミル! 私を本当に怒らせたいのですか!」
 この一言が効いた。ミュウと違ってミアは大らかではない、怒らせたら何をされるか解らないだろう。ミルは躰を震わせながら席を立った。太腿には僅かだがお漏らしをしてしまったらしく一筋の雫が流れ落ちていた。
「え〜ん……これじゃあ隆様をお姉ちゃんに取られちゃうよぉ……私……もう隆様がいなくちゃダメなのに……そんなのヒドイよ……お姉ちゃんのバカァ〜」
 聞き取れないほどの小さな声で呟きながら、ミルはリビングルームを後にするのだった。扉が閉まるまでミルの後ろ姿を睨み付けていたミアは、扉が閉まると同時に隆に振り返った。その表情は先程まで睨み付けて鋭い眼光はなくなり、少し瞼を閉じて瞳を潤ませている。そして、躰を更にすり寄せると首を軽く抱くのだった。
 きつい雰囲気を持った女が、頬を赤く染めている表情のなんと色っぽい事か……こんな表情をされて欲情しない男がいたならお目に掛かりたい。
 しかし、隆は顔色一つ変えずにミアの変貌ぶりを楽しんでいた。躰は燃えるように熱くなっている筈なのに、この冷静さはなんなのだろうか……これも、精神力の強さがなせる技なのだろうか。
「お前、妹には厳しいんだな……良いのか、あんな言い方して」
「良いんです。あの子がいけないのですから……ミルも立派な悪魔にならなくてはいけないのです。それには、もっと頑張ってもらわないと……でも、後であの子の事もかわいがってあげて下さい……」
「おっ、意外と優しいところもあるんだな」
 何も言わずに視線をそらした表情は、妹を慈しむ姉の表情になっていた。意外ときついことを言っているが、全てミルのために言っているのだろう。
「まぁ、そんなことは俺には関係ないんだけどね。さぁ、それじゃあいたしましょうかね。俺も我慢できなくなってきた」
「きゃっ……」
 そう言って、ミアを抱きかかえると隆は、そのままベッドルームへと向かったのだった。
 扉の前に立つと手がふさがっている隆の代わりにミアが扉を開ける。
 ベッドルームはずっと二人で使っているのに隅々まで綺麗に片づきベッドにはシワ一つない。綺麗好きのミアは、SEXが終わり部屋を出るときに何時も魔法で部屋を綺麗にしていたのだ。
 カーテンが閉まっている部屋は薄暗かったが、これからする行為を考えれば暗くはなく、程良い間接照明が部屋の中をいい雰囲気に演出している。
 扉を閉めベッドに近づいた隆は、ベッドの上にミアを乱暴に放り投げた。やはり扱い方はミルとあまり変わらないが、受ける側が違っている。ミアはチャイナドレスに付いた小さな羽根をうまく動かし、シャボン玉が落ちるようにゆっくりとベッドの上に横たわった。飾りの羽根のおかげで躰を浮かしているわけではないが、ミルのように無様に叩き付けられることはなかった。
「う〜ん……やるのは良いんだが、いい加減飽きてきたな」
「そんな……そんなこと言わないで下さい……私……」
 雰囲気良くベッドルームまでつれてきたというのに、そんな言い方はないだろう。まぁ、これも隆らしいと言えば隆らしいのだが、ミアはかなり傷ついている様子だ。
「いや、だからやるのが嫌な訳じゃないんだけどな。どうも、毎回同じ女を抱いていると新鮮味がないというか……おお、そうだ。俺が寝てるからお前奉仕しろ」
 考えてみれば、SEXは何時も攻め側に立っている。どうも、その方が面白いからなのだが、たまにはやられてみるのも良いだろう。
 隆は、ミアをどかせると洋服を脱ぎ捨て裸になってベッドに横たわった。
「さぁ、こい! 俺を気持ちよくさせて見ろ」
 なんと気持ちのこもっていない言い方をするのだろうか、こんな事を言ったら普通の女であれば頬を一発ひっぱだいて部屋を出て行きかねない。しかし……
「……良いのですか……私が隆様を……うれしい……」
 神人の女とはこんな考え方をするのだろうか、ミアは満面の笑みを浮かべながら躰を重ねると嬉しそうに隆の唇を吸った……唇を割って舌が入ってくる。それだけで興奮しているのだろう。ミアの躰は隆にも解るくらい体温が上昇していき、ジッとしていられない躰がいやらしく動いている。そんな、ミアの姿を隆は頭の上で腕を組みながら見つめていた。これだけの美女に奉仕させていて何という余裕なのだろうか、並の男であるならこれだけで絶頂を迎えてしまいそうだ。
「ううぅぅ……うん……はああぁぁぁ……」
 頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳で隆を見つめているミアの表情は、先程ミルを叱りつけていた女とはとても思えないほど女の表情になっている。このギャップが隆は好きだった。ミルとは違った魅力を持っている。いや、二人とも人間とは違うのだから人間以上の魅力を持っているのも当たり前かも知れない。
 ミアは、興奮で震える躰を起こすとチャイナドレスを脱ぎ捨てる。当然下着など着けていないので、一枚脱いだだけで裸になってしまう。そして、躰全体から快楽をしみこませようと隆の躰に擦りつけてきたのだった。
「あうぅぅ……はああぁぁ……あっあん……」
 顔を胸に落とし、大きな胸をお腹に押しつけ、太腿に秘裂を擦りつける姿は、まさに性に飢えている悪魔だった。
 しかし、これは隆の要望とは違う。
「コラッ! お前が気持ちよくなってどうするんだよ。俺は、奉仕しろと言ったんだぞ。あ〜あ……こんなにお前のを垂れ流しやがって、俺の股間を見てみろ」
 隆の男根は、こんなに色っぽいミアの姿を見ても全く勃っていなかった。いったいどんな躰をしているのか、これだけの事をやられているのにピクリともしないとは……能力を使った反動がないと自分でコントロールを出来るのは解る。しかし、今回は『妖精の蜜』を飲ませているというのに、それすらコントロールしきっていた。
 『妖精の蜜』でいつも以上に無茶苦茶にしてもらおうと考えていたミアの思惑は、大きく外れてしまい焦っている様子だ。
「そんな……スミマセン、私ばっかり……」
 しかし、何時も受ける側になっていたミアは何をしていいのか解らない。それでも、もてる範囲の知識を総動員した。とりあえず実践したことはないが、知識としては男を喜ばせる術は知っている。ミアは隆の脚を開くと男根の前に座り、自らの秘裂に手を当て、たっぷりと愛液を手につけると愛液を男根に塗っていく。両手でそれを繰り返すと充分に濡れた男根を両手で包むように握り、ゆっくりと手を動かし始めた。
 クチュクチュと言ういやらしい音が隆にも聞こえてくる。愛液をまるでローションのように使っている姿は、神人であるミアならではだろう。人間の女ならこれ程濡れないので、出来ないだろう。
「そうそう、そうやって奉仕しないとね」
 男根はミアの手の中でみるみる大きくなっていき、数秒の内に完全に大きくなった。
 人一倍大きな男根を握っているミアの動きがおかしくなっていく、そのたくましさに我を忘れている感じだ。ミアは、自分の愛液がたっぷりと付いているにも関わらず、大きな口を開けて男根を含んだのだった。いや、むしろ自分の愛液を舐め取るように、男根を根本から舐めあげる。そして、完全に愛液を舐め取ると再び両手で愛液をすくい男根に塗りつけていく、そしてまた舐め取っていく。
 この狂ったような行為がもの凄くいやらしく見える。何度かその行為を繰り返すと今度は、愛液を塗った男根を自らの大きな胸で挟んだのだった。これは、胸の小さなミルには出来ない芸当だ。
 左右から胸を押しつけるようにして男根を擦りあげる。愛液が潤滑油となり何とも気持ちの良い感触が隆を襲った。このきめ細やかな肌の感覚がたまらない。
「どうですか……隆様……気持ちがいいですか……」
 隆に奉仕しながら自らもかなり快楽を味わっているらしい。ミアの顔は今にも果ててしまいそうな表情をしている。
「おう、もっと頑張れ」
 意外に冷静な声に、ミアは必死になって胸を動かした。ミアは、このまま胸に出して欲しかったのだ。自分の躰が隆の精液で汚されるのを考えただけで興奮してしまう。しかし、隆は一向に絶頂を迎える気配はない。それよりも先にミアが我慢できなくなってきている始末だ。
「ダメェェ……隆様……もう私我慢できません……隆様のでイッても良いですか……」
「な〜んだ。もうイキそうなの? まぁ、今日はお前に任せてるんだから、好きにして良いよ」
 本当にこの男は感じているのだろうか、そう思えるほど冷静な顔をしている。しかし、ミアにはそれを考えている余裕などなくなっていた。隆の言葉を聞くと直ぐに男根を跨いで秘裂にあてがったのだ。
──はああぁぁ……入れただけでイッちゃいそう……
 そのミアの予想は当たっていた。ミアはゆっくりと腰を下ろしていくと快楽が全身を襲い。頭の中が真っ白になっていく。興奮しきっていたので、本当に挿入しただけで絶頂を迎えてしまったのだ。
「はあああぁぁぁぁぁ……イクゥゥゥゥ……」
 艶めかしい、喘ぎ声が部屋の中に響き渡ったとき、ベッドルームの扉がおもむろに開かれた。
 バンッ!
「隆様! ……」
 荒々しく開かれた扉の前には、赤いミニのチャイナドレスを着たミルが顔を真っ赤にして立っていたのだった。

第十一話「フェアリーの秘密?」終
第十二話へ続く
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