天国から来た悪魔
第六話 天使のような悪魔の笑顔!


 巨大な門を潜ったミルの目の前には、空間を贅沢に使った近代的な都市が広がっていた。近未来映画を思わせるようなビルが建っているが、その高さは高くても20階程度で、その他は比較的低いビルが建ち並んでいる。ビルとビルとの間には芝生や木々が多く、緑豊かな理想の都市といえよう。ただ下界と違うのは、車など一台も見あたらない。車のような野蛮な乗り物を使わなくとも神人達は、徒歩か空を飛んで移動している。そして、移動用魔法陣至る所に設置され、行く場所を頭で思い浮かべるだけで移動出来るようになっていた。
 ミルは、懐かしい街並みをゆっくりと歩いていた。都市は王宮を中心に放射状に各階級(仕事)毎に効率よく配置され、一番外側には住宅と学校などの施設が設けられている。
「ミルちゃん……」
 いきなり後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声がミルの顔を少し曇らせた。逃げ出したい気持ちを抑え、何とか笑顔で振り向くことが出来た。
「……エルちゃん……久しぶり、元気だった」
 振り返ったミルの前には、真っ白なベールのようなドレスを着て小さな白い羽を付けた少女が瞳を潤ませながら立っていた。
 エルと呼ばれた少女は、着ている衣装からして天使(見習い)なのだろう。透き通るような白い肌、大きな少し垂れた瞳に少し小振りな鼻、紅を刺したように少し赤くなった唇、手入れの行き届いたストレートのブロンドの髪は、人間が想像する女神そのものだった。
 一滴の涙が頬を伝った。声を上げて泣くのを我慢している美少女……何と可愛らしく、美しい姿なのだろうか。
「ミルちゃん……本当にミルちゃんですの……良かったですわ……やっと帰ってこれたのですね……」
 ミルがいなくなっている間、ずっと心配していたのだろう。エルの瞳からは次から次へと涙がこぼれ落ちていた。
「エルちゃん……ごねんなさい。今急いでるの」
 久しぶりにあった友達だというのに……こんなに心配してくれている友達だというのに、何でミルはこのような態度を取るのだろうか、しかしミルは、何とかその場を離れようとしている。振り返ろうとしたミルの手をエルは素早く取ると顔を近づけ真正面から見つめ話し始めた。ミルの態度など全く気にしていない様子だ。
「ミルちゃん、みなさん心配……ううん。私だけは心配してましたの……ミルちゃんが、いなくなってしまった時……みなさん、ミルちゃんのこと『ドジ』とか『間抜け』とかおっしゃってましたけど……私だけは……私だけは、違いましたの……」
 何だか様子がおかしくなってきた。エルは意志的にやっているのかミルの手を強く握り離さない。それを何とか振り払おうとミルは必死でもがいている。
「エルちゃんあのね……」
「ううん。解ってますわ……解ってますとも……ミルちゃんは『ドジ』なんかじゃありません。あの時だって、ちょっと失敗しただけ……『人間が悪魔を呼びだすための愚かな呪文』の授業で『合わせ鏡』の扉が開かれた時だって、みなさん大丈夫だった……先生も言ってましたでしょ『この扉に吸い込まれると下界に召還されてしまう』って……でも、でも、たまに悪戯好きの神人だけが、おもしろ半分に下界に降りるだけで『間違って鏡のゲートに落ちるマヌケはいない』って……簡単な防御呪文でこんなゲートは防げるって言ってましたのに……でも、ミルちゃんは『マヌケ』にもゲートに吸い込まれてしまって……」
 ミルが口を挟もうにも挟む暇がない。それに彼女は本当に心配しているのだろうか……どうもミルのことをけなしているようにしか思えない。
「本当にみなさん驚いていたのですよ。安全な授業の筈なのに、突然ミルちゃんだけがいなくなってしまうから……でも、先生は慌てませんでした『マヌケは放っておいて授業を進めましょう』と言って、授業を進めてくださいました……それはそうでしょ。いくらミルちゃんでも、扉の魔法陣は書けると思ってましたから、直ぐに帰ってくるとみなさん思ってましたの……それなのに、ミルちゃんはなかなか帰ってこなかった……みなさん噂してました『扉の魔法陣まで書けないんじゃないか』って、それを聞いて私直ぐに言い返してやりましたわ『失礼ですわ! いくらミルちゃんだからって、そんなにバカじゃないですわよ! ちょっと思い出すのに時間が掛かってらっしゃるのよ』って……ねえ、解かりますでしょ。私がどれだけミルちゃんの事を心配していたか」
 エルの話を聞いていて、ミルはどんどん落ち込んでいった。いつもながら何のまとまりもなく、人を傷つけることをズバズバ言ってくれる。悪気があって言っているわけじゃないのが余計にたちが悪い。今言っていることも、自分は凄く心配していたと言いたかったのだろうが、それ以上にミルを傷つける言葉がふんだんに散りばめられていた。
「……エルちゃん……お願いだからそんなにいっぱい喋らないで……」
 隆にもミルが下界に来た時の事を聞かれたが、真相はこういう事だったのだ。
 下界時間13日の金曜日午前0時……ミル達天界学校2年生は『人間が悪魔を呼びだすための愚かな呪文』の授業を受けていた。そして、生徒達は自分で《鏡の扉》の魔法陣を書き上げ、下界時間午前0時を待っていた。その間に、《鏡の扉》の説明を受けていたのだ。《鏡の扉》は人間が作り出す扉の中でも一番弱い扉だった。何のパワーも持たない人間でも悪魔を呼び出せる扉なのだから、本来であればそんな扉に神人達が答えるはずもなかったのだが……昔、一度だけこの扉を使って下界へ降りた悪魔が存在したのだ。その事が人間に一番ポピュラーな悪魔の呼び出し方として浸透してしまった。この時、決められた規則が、魂を貰う代わりに三つの願いを叶えると言うことだった(これも、始めに降りた悪魔が勝手に決めたことだが、今ではちゃんと規則となっている)。これは、今でも守られなくてはならない規則である。たとえそれが、悪魔見習いであろうがセラフィム(最上級天使)やサタンであろうと同じである。
 その日も、扉を開けてみるだけの簡単な授業だった。これくらいの扉なら、一年生でも召還されることはない。この扉は神人が進んで召還されない限りほぼ100%役に立たない扉と言えた。その為、生徒達も扉が開かれても別段慌てる様子もなくジッと扉の様子を眺めていた。
 しかし、その日のミルは前日の夜更かしがたたり寝不足で、先生の話も頭に入ってこない状況だった。必死で瞳を閉じずにするのが精一杯……だが、とうとうミルの瞳が閉じられ机に倒れ込んだ時に運悪く《鏡の扉》に触れてしまったのだ。寝ぼけた頭では簡単な防御呪文のスペルも浮かばず、あっという間に隆の元へ召還されてしまったのだ。
「そんな……私はミルちゃんのこといっぱい、いっぱい、いぃ〜っぱい。心配してさしあげてたのに……ミルちゃん冷たいですわ……何でそんな切ないことをおっしゃるの……私は、みなさんからミルちゃんが『マヌケ』じゃないって庇ってさしあげたのに──」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
 ミルは慌ててエルの言葉を遮った。このまま行くと同じ事の繰り返しになってしまう。それに、ここで時間を潰しているわけにも行かない。ミルが天界に戻ってきたことはコンピュータを通して、校長のガブリエルにも知らされている事だろう。まず、そこに行かなくてはならない。
「あのね……エルちゃんが心配してくれてることは解ってたの……でも、どうしても帰ってくることが出来なくて……その事もガブリエル様に報告しないといけないの……だから、ガブリエル様の所に報告した後にお話しましょう」
 まずは学生の義務を果たさなくてはならない事を強調した。性格は別として、天使の能力では天才的に優れているエルは、規則の事を言えば簡単に引き下がると思ったのだ。
 エルは少し考えると納得したように頷いた。しかし……
「そうですわね。ガブリエル様に報告に行かないといけないですわ……うん、解りました。私も一緒に行ってさし上げます。ミルちゃんが怒られるのでしたら、私が庇ってさし上げますわ」
 エルは可愛らしい笑顔を作り胸の前で両手を握った。別に怒られることが決まった訳じゃない。多分、怒られることはないだろう……しかし、エルがこう言い出したら止めることが出来ない。無理に止めようとすればどうなるか解らないからだ。
 ミルは、報告に行くよりも大きな不安要素を抱え、天界学校へと向かったのだった。

「よく無事で戻ってきました。心配していたのですよ」
 慈愛に満ちた優しい声が聞こえてくる。その声でミルはやっと安心できた。やはりここに来るまでは、怒られるのではないかと少しだけ心配していたのだ。しかし、大きな机越しに優しい笑顔で微笑んでくれるガブリエルの顔を見ているとそんな心配が取り越し苦労であることを認識した。
 大天使(アークエンジェル)の地位にあるガブリエルが、生徒の失敗を怒るはずがなかった。何時も優しい笑顔で接してくれる校長を生徒全てが尊敬し好いていた。今日は得に、不注意ながらも下界へ落ちてしまったミルのために、本当の女神の笑顔を投げかけてくれていた。
「申し訳ありません。ガブリエル様……本当にごめんなさい……」
 優しい笑顔で迎えられると何だか涙が溢れてきた。連絡も付けずに下界にいたことが、いけないことをしていたと思い知らされる。隆の目を盗んでもっと早く報告に来るべきだったとミルは心の底から後悔していた。
「泣くのはおよしなさい。貴女は他の生徒が経験しえない貴重な体験をしてきたのですから……これからは、下界に降りたことを良い経験として立派な悪魔になるのですよ」
「はい……ガブリエル様」
 ほんのりと光を放つガブリエルの姿が美しく見えた。エルと殆ど変わらない衣装を着ているのだがエルと違い大人の美しさが醸し出されている。それに、美しく大きな白い羽がガブリエルをより一層美しく引き立てていた。そして、少しウェーブの掛かった綺麗なブロンドの髪を少し揺らしながらもう一度ミルを見返した。
「それではミル……下界で何があったか報告してください。何故、戻るのがこれ程遅れてしまったのかを……」
 ガブリエルの瞳が少し陰った。何故、ミルが直ぐに戻ってこなかったのか疑問に思っている様子だ。調査をしてしまえば直ぐに答えが出ることではあったが、自己の責任を尊重する天界では報告があった後に、虚偽の報告をしていないか調べるのがしきたりだった(しかし、虚偽の報告をする者は今まで一人も出ていない)。
「はい……私は授業中に居眠りをしていて《鏡の扉》に入ってしまいました……」
 ミルは、事細かく報告した。ガブリエルも横に一緒に立っているエルもミルの報告を黙って聞いている。しかし、隆が『三つの願い』で何を言ったかを話すとガブリエルの顔がにわかに動き、ミルの話を止めた。
「ミル……そんなことはあり得ません。人間がそのような願い事を貴女に対して言うなど……言えるはずがないのです」
 隆の出した願いとは、第一が『願いが叶えられなければ天野隆の下僕になる』第二が『天界で一番偉いのは誰か』そして、第三が『堕天使ルシフェルと同じ力を授けよ』の三つだった。二番目の願い事は問題ない。一番目は、こんな事を考える人間がいるとは少し驚きだが、三番目の願い事はあり得ないことだ。一、二番目の願い事はミルの魔力に関係していないことなのでいいのだが、三番目は、ミルの魔力に大いに関係してくる事柄だ。《鏡の扉》での願い事は、出てきた神人の能力に大いに影響を受けるのだ。大きな力を持った神人が現れれば、大きな願い事が叶えられる。しかし、小さな力しか持たない神人が現れたのであれば小さな願い事しか叶えられないのだ。これは、もし人間が大きな願い事を叶えて貰おうとしても、神人の能力に合わせた願い事しか思いつかないようにプロテクトが掛かっているのだ。
 今回の隆の願い事は、ミルの能力を大きく超えている。いや、どんな神人が現れようとこんな願い事を言えるわけがないのだ。
 ミルの言っていることは、普通であれば信用できない。
「ミルちゃん……本当ですの……ここでは、誤魔化す事なんて出来ませんわよ」
 心配そうにエルがのぞき込んできた。
「……私、嘘なんて言ってない……本当なんです。調査して頂いても結構です」
 本当の事を言っても信用して貰えないのであれば、調査して貰うしかない。
「……私も、貴女の事を信用していないわけではありません。もしこの事が事実であれば、これは天界にとっても大変な事ですので、一応調べさせて貰います」
 そう言うとガブリエルは傍らに置いてあるコンピュータを操作した。調査は数分で終わる。数分後にはガブリエルの手元に資料が届くだろう。ミルにとって長い長い時間だった。
 小さな機械音が鳴るとモニタに映し出されているであろう調査報告書に、ガブリエルは目を通し始めた。その顔が見る見る驚きの顔になっていく、そして……
「貴女の言っていることに嘘はありませんでした。何故、このような自体になったかは更に調査が必要です。仕方ありません……下界に戻ることを許可します。ただし、下界でも勉強は怠ってはいけませんよ。解りましたかミル」
 悪魔の契約は絶対だ。隆の一生が終わるまでミルは隆につかえなくてはならないだろう。しかし、今は隆と離れることなど考えられない。ミルは下界に降りる正式な許可を貰って嬉しかった。緩みそうになる唇をキュッとつぐみ、笑い出しそうになるのを必死に堪えた。
「ところでミル……一体これはどういう事なのですか?」
 ガブリエルが右手を振ると何もない空間にスクリーンが現れ、映像が映し出された。その映像を見て、ミルは言葉を失った。
 スクリーンの中では、ミルのあられもない姿が映し出されていた。毎日何度も行われている隆とのSEXシーンが次から次へと映し出される。ミルは顔を赤くして俯くことしかできなかった。調査したのだから、この映像があるのは当然だ。
「情けない……何故、神人である貴女が人間に良い様に扱われているのですか。確かに貴女はまだ2年生です。インキュバスの授業を受けていないのは解りますが……これはいくら何でも非道すぎますよ」
「え……あの……その…………申し訳ありません……」
 ミルは全身を真っ赤にして深々と頭をさげた。ガブリエルは少し呆れ顔でミルを見つめている。しかも、隣ではエルが「わぁ〜」とか「きゃ〜」とか言って騒いでいるので、恥ずかしさでこの場を逃げ出したい気分だった。
「このまま下界に降ろすのは、少し心配でもありますが……仕方ないでしょう。下界に行ってもしっかりやるのですよ。何かあったら直ぐに連絡を入れなさい。貴女が使えている人間は、私にも解らない所が沢山あります。こちらでも調査は続行しておきますが、もしこれ以上、無理難題を言ってくるようなら手伝うことは出来なくとも助言くらいは出来ますからね。天界は貴女の味方です……さあ行きなさい。くれぐれも快楽に溺れないよう気を付けるのですよ」
「はい……」
 ミルは恥ずかしさの余り、ガブリエルの顔を見ることなく校長室を後にしたのだった。扉を出ると直ぐに両手を頬に当てた。まだ顔が火照っている感じだ。
「ミルちゃん……大丈夫ですの?」
 先程まで騒いでいたエルが、心配そうに顔をのぞき込んだ。そう言えば忘れていた……エルにあの映像を見られていたのだ。
「エ……エルちゃん……みんなに言わないで……私が……えっと……その……」
 人間よりも性に対してオープンな神人であったが、相手が人間だと言うことが不味い。もし、他の友達に知れたら何て言われるか解らない。
「はい? ええ、大丈夫ですわよ。ミルちゃんが人間の下僕になっているなんて口が裂けても言わないですわ。性の虜になってるなど絶対にクラスメイトになど言いません……私を信じて下さいませ」
 そう言われても、信じられない。エルは言うつもりが無くてもうっかり口を滑らすだろう。言わないつもりでも、ほぼ100%どこかで話してしまう筈だ。解っていても、口止めをしておかないとミルの気持ちが収まらなかった。
「……うん……解った。信じるしかないんだよね……」
「そりゃ、大丈夫ですわよ。ミルちゃんのことを何か言う人がいましたら、私がちゃんとフォローしておいてさしあげますから」
 エルのフォローが一番怖かった。しかも満面の笑みを浮かべている。エルを知らない人が見れば天使の笑顔に見えたであろが、ミルには悪魔の笑顔にしか見えなかった。
「はあぁぁ……」
「どうしましたの? 溜息などついて……それよりもミルちゃん……何時下界に、行ってしまわれるの?」
「えっ……うん。あと二日くらいこっちにいられるかな」
 時の流れは下界と同じなので、後二日間はいられるだろう。だからといってのんびりもしていられない。
「そうですの……それでは、余りのんびりもしていられないですわね。寮に戻って下界へ降りる支度をしなくては……でも、大丈夫ですわよ。私がちゃんと手伝ってさしあげますから」
 何でも首を突っ込んでくるエルには困ったものだが、むげに断るわけにも行かない。ここで機嫌を損ねたら、さっきのことが何十倍にもなって流れることだろう。ミルは少し諦め気味にエルと二人、寮に向かって歩いていった。

 寮の部屋に戻った二人は、話す間もなく支度に取り掛かった。二人の努力もあり先程までフローリングの床に荷物が散乱していたのに、今は綺麗にかたづけられている。
 教科書を詰めただけで、大きなトランクがいっぱいになってしまったが、まぁ着替えなどは隆の家に沢山あるので、悪魔の衣装を二、三着持って行けば良いだろう。
「本当に着替えはこれだけでよろしいの? 女の子なんですから綺麗にしてなくてはいけないと思いますわよ」
「うん、大丈夫。隆さ……ううん、人間の家にいっぱい洋服が置いてあるから平気、教科書だけ持って行けば大丈夫だよ」
 これからミルは通信教育で授業を進めて行かなくてはならない。先のことを考えると少し不安だが、隆と離れることが出来ないので先のことは先に行ってから考えることにした。
「そうですの、後は忘れ物はないですか……じゃあ、これで準備も終わりですね。ミルちゃん……ちょっとよろしいかしら……」
 珍しくエルがしおらしくしている。準備している時も黙々と手伝ってくれていた……いつものエルを考えると信じられないことだが、かなり助かったのは事実だ。
「うん……何、エルちゃん?」
「あのですね。私凄く興味があることがありまして……」
 突然何を言い出したのだろう。ミルは突然の話の展開に何だか解らない。
「…………?」
「ミルちゃんは人間とHをしてたでしょ……あの映像見てると凄く気持ちよさそうでしたわ……本当に気持ちいいのかなぁ……って思いまして……」
 いきなりこんな事を聞かれると思っても見なかった。まだ、《インキュバス》の授業をやっていないので興味があるのだろう(一応、《インキュバス》とは悪魔の仕事なのだが、学校では授業としてカリキュラムに入っている)。
「えっ……どうしたのエルちゃん……」
「だって、ミルちゃん気持ちよさそうでしたから……神人とするより気持ちいいのかなって思いまして……見ていましたら、男の人のアレも大した差もないみたいでしたし……行っていることも同じみたいでしたのに……ミルちゃんって神人といたす時でも、あんなに感じていらっしゃるの?」
 真顔で色々なことを聞いてくる。神人と人間の差など解るはずがない、ミルは隆としたSEXをしたことが無いのだから……
「そっそんなの解らないよ。だって私……初めてだったから……その後も人間としかしたことないし……」
「ええぇぇぇ……そうでしたの……初めての人があの人間でしたの……神人とは経験が無かったなど……ミルちゃん……お可哀想に……」
「そんなこと無いよ。私は別に……で、嬉しかったから……」
「はい?」
「ううん。何でもない……でも、私達の歳じゃまだ経験してる子は少ないでしょ。仕方ないよ」
 やはり神人も初めての人は、何時までも覚えているらしい。だからといって人間ほどこだわっているわけではないが、初めてが人間ともなれば話は別だ。
「そんなことないですわよ。クラスの子も殆どが経験してますわ……天使を専攻してる子など《インキュバス》の力は使うことはありませんから、真剣に授業を受けるなど考えておりません。ですからみなさん経験済みですわよ。それに、私達のクラスの子は、悪魔専攻でもみなさん経験してますわ……ですから、てっきりミルちゃんも経験済みなのかと思ってました……そう言えば、性に関してはミルちゃん奥手でしたものね。《インキュバス》の授業になったらどうなるのでしょう』とみなさんで心配してましたけど……もしこのままでしたら心配していた通りになったかも知れませんわね」
「…………」
 知らなかった。みんな経験済みだったとは……
「神人と経験がないなんてお可哀想ですわ……解りました……私がミルちゃんの初めての相手になってさしあげます」
「えっ……いいよ。エルちゃん……それに、エルちゃん女の子じゃない……」
「ウフフッ……私を誰だと思ってらっしゃるの……成績優秀な天使エルですわよ。それに、お姉様達から随分先の授業も受けてますの……ですから大丈夫《シーメール》もちゃんと使えますから……」
 確かにエルは成績優秀だった。姉妹も沢山いて色々教えて貰っている事も知っていたが、まさか《シーメール》まで使えるとは思ってもみなかった。《シーメール》は《インキュバス》と同じ4年生にならなくては習わない授業なのに、それを使いこなしているとは……《シーメール》とは、両性具有者に躰を変化させる術だ。人間界に『天使は両性具有者』と言う伝説が流れているのはこのせいだろう。
「……えっ……《シーメール》まで使えるの……でも、いい……私は隆様だけで……その他の人となんてしたくない……」
「ミルちゃんおかしいですわよ。人間に取り憑かれてますわ、人間に『様』付けて呼ぶなどと……いいですわ、私がミルちゃんを助けてさし上げます……」
 そう言うとエルは瞼を閉じ、小さな声でスペルを唱えた。するとエルの股間は、徐々に膨らんでいき、にわかにエルの声が荒くなっていく。
「……どうですか、私のここをご覧下さい……もうこんなに大きくなってますでしょ……」
 嫌だと思っていても、ミルの視線はエルの股間に落ちていた。エルの股間は、ドレスの上からでも解るくらいに大きくなっている。そしてドレスの裾を割ると大きくなった男根が露わになった。そして、エルは自らの男根を握り、ゆっくりとしたストロークで男根を擦り上げ始めた。
「はああぁぁ……どおですか……人間のよりも大きいでしょ……これを味わえば、きっと人間なんて忘れられますわよ。人間の事を『隆様』何て呼ばなくなりますわ……」
 何時も清楚なイメージのあるエルが、いきなり淫ら天使に変わってしまった。一度エルが淫乱だと言う噂を聞いたことがあったが、その時は単なる噂だと思ったが、目の前のエルを見るとそれが噂ではないことが解る。ミルは、擦り上げられる男根から目が離せなくなっていた。
──どうしちゃったの……躰が熱くなっちゃう……ヤダッ……濡れて来ちゃった……どうして……
 自分の考えとは裏腹に躰が熱くなっていくのが解る。まるで隆の《パワー・オブ・オーサリゼーション》を受けているような感覚に陥っていく。
「どうですか、躰が熱くなっていくでしょ……これが《インキュバス》の力の一端ですわ。どんどん精力を高めていく……私の瞳に見つめられたら、抱かれたくてしょうがなくなりますの……さぁ我慢できますかしら……」
 《シーメール》を使えるのだから《インキュバス》が使えても不思議ではない。ミルは、それを防ぐ術を知らない。どんどん躰は熱くなっていき、全身が性感帯に変わっていく……エルを避け後ずさる時、服が擦れる僅かな刺激でさえ躰は反応した。乳首が立っているのが解る。恥ずかしいが、徐々に脚が開いていく……躰はエルの男根を欲しがっていた。
「もう逃げるのは終わりですか……そうでしょ、もう私に抱かれたくて仕方なくなってるのですから……さあ、私のを口でするのですよ」
 いつものエルとは違う。一体どちらのエルが本当のエルなのだろうか……しかしそんなことは、もうどうでも良くなっていた。ミルは催眠術に掛かったように、男根から目が離せなくなっている。
──はあはあ……もうダメェ……躰が言うこと聞かないの……隆様ごめんなさい……ミルは悪い子です……でも……ダメなんです……
 ミルはそのまま跪き、エルの股間に顔を埋めた。隆のより少し小振りな男根が目の前でそそり立っている。ミルはエルの手をどけ男根に手を添えると優しく握りゆっくりと擦り上げた。
──はあぁぁ……これが欲しい……隆様がしてくれなかったからいけないんですよ……
 唇を一舐めし、舌を出すようにして男根を含んだ。何時もと違う感覚が口の中に広がっていく……人によって男根もかなり違う物だとボンヤリと考えながらゆっくりと頭をスライドさせた……すると
「はあぁぁ……ミルちゃんダメェですの……出ちゃう……はうっ……」
 口の中に大量の精液が放たれた。ミルは驚いて口を離してしまい、エルの精液で顔を犯されてしまった。
「……えっ……ええぇぇ……何で……」
「うふっ……気持ちよかった……お口でされるのって気持ちいいですのね。」
 エルの少しはにかんだ顔がミルに近づいてくる。
「エルちゃん……何で……どうして……」
「う〜ん……それはですね。こっちの性器は、試すのが初めてですの」
 言葉にならなかった。さっき散々ミル以外はSEXを経験していると言っていたのに……初めてとはどう言う事なのだろうか……
「だって……さっき経験があるって……」
「ですから、それは女の子で経験があるだけですの……お姉様達に《シーメール》を教えて頂いても、姉妹でそんなこと出来ませんでしょ……ですから、女の子とSEXするのは初めてですの……解りました。ですから今度はお口じゃなく、ここで……ね。」
 エルの手が素早くミルの股間に伸びた。ビッショリに濡れたパンティーは、秘裂の形をくっきりと映し出していた。
「はうっ……はあぁぁ…ダメェェ……そんなとこ触っちゃ……」
「そんなこと無いですわ……ホントはいっぱい触って欲しいのでしょう……ほら、どんどんエッチな液が流れ出てますわよ……凄い……私なんてこんなに出ないですわ……」
 指の動きに合わせ快楽がミルの中に進入してくる。《インキュバス》は、射精と同時に解けているはずなのに、もう直接触って欲しくてたまらなかった。さっきガブリエルに快楽に溺れないようにと言われたばかりなのに、少し刺激を与えられただけで落ちていく自分が解る。
「お願い……直接……直接触って……ううん……もう入れて……入れて欲しいの……エルちゃんお願い……エルちゃんのを入れて……」
 エルは嬉しそうに頷いた。
「はい。嬉しいですわ……それではミルちゃんも脱いで下さる。私も裸になりますわ」
 そう言うとエルは立ち上がり、白いドレスの肩を落とした。中は下着など着けられておらず、白い美しい裸体が露わになった。意外と大きな胸に細く引き締まったウエスト、肉付きのいい腰は女の色気をふんだんに漂わせていた。ただ、人と違うのは股間から立派な男根が生えていることだけだった。しかし、その裸体を見つめていたミルは美しいと思った。これが天使の美しさなのだろうか……
「さぁ早く……何を見とれていらっしゃるの……しょうがないですわ、私が脱がせて差し上げます……」
 ミルの胸元に手を入れると左右に思いっきり開き、いとも簡単に洋服を引き裂いたのだった。
「ああああぁぁぁ……」
 乱暴にされてもミルはそれを快楽に変えていた。パンティーだけになったミルは息を荒げながらエルに抱きつき唇を重ねた。何と美しい光景だろうか……天使と悪魔の契りなどそう滅多に見られる物ではない。
 二人は頬を染めながらその場に倒れ込んだ。フローリングの床が火照った躰に気持ちが良い。
 エルの優しい手が、ゆっくりとパンティーを降ろしていった……それを恥ずかしそうに見つめながらミルは小さな喘ぎ声を漏らした。
「はあぁぁぁ……」
 そんなミルを見つめながら、ニッコリと微笑いる……そしてもう一度唇を重ねた。
「入れますわ……」
「うん……入れて……」
 ミルが男根を握り秘裂へと宛がう……そして、男根はゆっくりと秘裂の中へ飲み込まれていった。
「はあああぁぁぁ……」
 二人の喘ぎ声が重なる……男根が根本まで飲み込まれると秘裂からは大量の愛液が流れ落ちた。しかしこれは、ミルだけの愛液ではなかった。エルの秘裂からも愛液が流れだし混ざり合って床に水溜まりを作っていく。
「あうっ……はあぁぁ……気持ちいいですわ……ダメェ……動く事なんて出来ない……ダメェェ出ちゃいますぅぅぅ……」
 挿入しただけでエルは再び放っていた。初めての時は大体こんな物だ……童貞男と同じような反応を示している。
「大丈夫エルちゃん……いいよ……いっぱい出して……もっと出来るでしょ。エルちゃんの全然小さくならないもん……」
「はい……まだまだ大丈夫ですわ……女の子を抱くというのは気持ちの良い物なのですね……ううん。ミルちゃんを抱いているから気持ちいいのかも知れません……きっと、ミルちゃんだから気持ちが良いのですね」
「エルちゃん……」
 何だか照れくさいことを言ってくれる……エルの正直さが初めて嬉しく感じた。
「動かしてもよろしいですか……ミルちゃんを気持ちよくさせてみたいのですが……」
 そう言いながらも腰は既に動きはじめている。隆の時とは違う快楽がミルを襲った。どちらが気持ちが良いとは比べられないが、ゆっくりとしたストロークのわりに、快楽の注ぎ込まれ方が多いような気がする。
「はああぁぁ……エルちゃん……凄い……凄く良いの……気持ちいい……気持ちよすぎちゃうぅ……」
「私も……私も気持ちいいですわ……ミルちゃんの中が熱くて……」
 単純な腰の動きだが凄く気持ちが良い。しかしエルは、上体を起こし脚を抱えるようにしてミルを責めた。
「あうっ、はあぁ…あっあっ……凄…い……エ…ルちゃ……ん……ダメェ……イクゥゥゥ……」
 オナニーしている時などより、早く絶頂へ達した。しかし、エルの動きは止まることは無い。ミルが絶頂を迎えたことに自信を持ったのか更に強くミルを責め始めた。
「そんなにしちゃ……ダメェェ……そんな……ことしたら……直ぐに……」
「はあはあ……あうっ……良いですわ……もっとミルちゃんを……逝かせたい……」
「あうっ……ああぁぁ……ダメェ……エルちゃんも……気持ちよくなって……」
 ミルはエルの胸を揉み始めた。大きな胸が掌の中いっぱいに広がる。綺麗な肌は掌が吸い付くようで気持ちが良い。左右非対称の円を描くように胸を揉み上げるとエルの喘ぎ声が変わった
「はぁぁぁ……ダメですわ……そんなことしたら……また出ちゃいます……はあぁぁ……ダメェ……止めて……」
 そう言いながらも、エルの腰の動きはどんどんスピードが上がっていった。
「あうっ……そんなにしたら私も……ううん……一緒に……一緒に逝こう……」
「あああぁぁ……はい……一緒に……逝きたい……あっあっ……出ます…出ますぅぅ……」
「イクゥゥゥ……」
 二人の絶頂の声が部屋に響き渡った……何と艶めかしい声なのだろうか、男と女の交わりではない、レズでもない……不思議なSEXは、二人の失神と共に幕を閉じることとなった。
 こうして新たな快楽を得た二人は、ミルが天界にいる間中、休む間の無く続いたのだった。

第六話「天使のような悪魔の笑顔!」終
第七話へ続く
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