非公認地球防衛軍 第四章 〜不安 2〜


「晶!」
 崩れ落ちそうになる晶の躰を男が抱きとめる。その男はまだ熱いと言うのに黒いコートを着ていた。夕日を背にしているので、顔はハッキリとは見えないが、黒のサングラスを掛けており、判別しにくい中でもその男の顔が整い美しい事だけは解った。
「俺が運ぶ。どいてくれ」
 そう言うと男は、軽々と晶を抱きかかえマンションへと歩き出す。
 その姿を唖然と眺めるしかなかった。不思議な事に、未だ半袖でも汗を掻いている明美に対して、男は汗一つ流していない。晶を抱えても尚、涼しい顔をしてしる。
「……そこにある袋…持ってきてくれないか」
 呆然と立ちつくす明美を振り返り、美しい男……少年は明美を見つめ、足下に落ちているスーパーの袋を軽くアゴで指した。
 そのアゴのラインが、何処かで見覚えの有る少年だった。
「早く」
 その考えをうち消すように少年がもう一度声を掛ける。明美は慌ててスーパーの袋を取り、少年の後を追った。
「……あの……あなた……誰ですか……」
 晶の事は、有る程度知っている。この少年は、晶の知り合いに中には存在しない。
「そんな事はいい。まず、晶を部屋に連れていくのが先だ」
 その横顔を眺めながら小走りに付いていく。何処かで見覚えのある顔……しかも、つい最近見たような気がする……もしかして……
「…………片桐…さん……?」
 確かに片桐澪に似ている。しかし、澪は女の子だ。今ここにいるのは、どう見ても男、しかも美少年だ。
「話は後だ、エレベータのボタン押してくれ」
 いつの間にか、マンションのロビーまで来ていた。明美は言われたとおり、エレベーターのボタンを押す。幸いなことにエレベータは1階おり、直ぐに扉が開いた。
 明美は先に乗り込み、ボタンを操作する……二人が乗り込んだのを確認して扉を閉め、6階のボタンを押した。
 軽い振動の中、明美は澪に似た少年が気になってしょうがなかった。
──……片桐さんの筈ないか…確かに彼女は男性的な魅力を持っていたけど、この人はどう見ても男の人だもんね……もしかして片桐さんのお兄さん? でも、何で晶ちゃんのマンションにいるの? 片桐さんもこのマンションに住んでるのかな……
 程なくして6階に到着し、エレベーターを降りる。少年は迷うことなく晶の部屋へと向かっていった。
──晶ちゃんの部屋……知ってるみたい……
 部屋まで知っているこの少年に、益々興味が湧いてくる。
「……カギ、開けてくれないか」
 部屋の前で止まった少年は、明美を促す……
「カギ?……でも私カギの有る場所知らない……」
「ポケット…晶の右のズボンのポケットに入ってるから」
 そう言われ、荷物を置き、晶のポケットを探した。カギは少年の指示した所にあり、ポケットに手を入れる。
「……アッ……イヤッ……」
 ポケットの中をまさぐった時に、意識を失っている晶の口から、小さな喘ぎ声が漏れる。そう言えばポケットの中も何となく湿っぽかったような気がする。
 そんな事を気にしつつも、明美はカギを取り出し扉を開けた。
 少年は、明美の方を見ようともせず、開けられた扉をくぐると真っ直ぐリビングへ向かい、ソファに晶を静かに寝かせた。その傍らに跪き晶の寝顔を見つめていた。
 完全に脱力状態になっている躰、少し蒸気した晶の顔を見つめながら、少年は明美がリビングに入ってくる気配を感じた。
「ありがとう……後は俺一人で大丈夫だ。もう帰ってくれ」
 その言葉を聞き、荷物を抱えて入ってきた明美は入口で立ちつくす。いくらなんでも失礼な言い方だ。怒りに乗じて溜まっていた質問が一気に吹き出した。
「……ちょっ…ちょっと待ってよ。何よその言い方、それにあなたには聞きたい事が沢山あるの! あなた一体誰、晶ちゃんとどういう関係なの? 何で、部屋まで知ってるの? ちゃんと説明して」
 少年を睨み付ける。こうなると明美は度胸が据わってしまう。納得のいく説明が無ければ一歩も動かないだろう。
「君には関係のないことだ。それに、説明しても理解できない」
「……関係ないってなによ。あなたが晶ちゃんとどういう関係か知らないけど、私だって晶ちゃんの友達なんだから、心配するの当たり前じゃない。それに説明もしてみないで、理解できないって……そんなこと解らないでしょ! 何か知ってるならちゃんと説明しなさいよ」
 明美は怒りをあらわにして、くってかかった。
 少年は、静かに立ち上がり明美に振り向いた。サングラス越しに明美の瞳をじっと見つめる……その時だった
「……澪、説明してやったらどうだ……」
 どこから途もなく気の抜けた男の声が部屋の中に響き、突然テレビのスイッチが入った。
「……何?……」
 明美は驚いてテレビの方を振り返る。そこには、一人の男が映し出されていた。
「……いやー脅かしてすいませんね〜。私、葛西と言います。あなた確か晶ちゃんのクラスの学級委員長の滝沢さんでしたっけ」
 映し出されたのは葛西だった。葛西はカメラだけでは物足りず、こんな仕掛けまで部屋に残していったのだった。
「……良太…お前……こんな仕掛けまでしていったのか?……悪趣味だぞ……」
 さすがに澪もこれには驚いた様子だった。
「そんな事はどうでもいい、兎に角その子…えーっと明美ちゃんに説明してやれよ。別に隠し立てしてもしょうがないし、クラスに理解者がいると何かと便利かも知れないぞ」
 物事を深く考えない葛西であったが、この結論も安易と言えば安易かもしれない……
「……ちょっと待って……澪って……あなた…やっっぱり片桐さんなの……?」
 見た覚えの有るはずだった……明美はゆっくりサングラスを外す澪の顔をまじまじと見つめていた……しかし、前に会ったときよりも躰ががっちりしていて、どう見ても男にしか見えない。
「……片桐さんって、女の子よね……でも……だっ男装が上手いのね……男の子にしか見えないよ……」
 美人だったと言う印象しか持っていなかった。でも、ここに立っているのは美人は美人でも男の美を持っている美人だった。
「……しょうがないか……明美、理解しろとは言わないが、これが現実と言う事だけ認識してくれ、今の俺は男だ! それに、晶は今は女になっている……」
「えっ……???」
 唐突すぎる……いきなり女が男になって、男が女になったなど……それだけで明美の頭の中はオーバーフローしてしまう。前に立っている澪を見れば、男であることが解るし、良く知っているはずの晶を見ても、前から女性的ではあったが、今はそれとは違う、完璧に女と言う雰囲気を漂わせている。
「……ちょっ……」
「質問は後で受ける。取りあえず一通り説明するから、兎に角黙って聞いていろ」
 質問しそうになる明美を遮り、澪は説明を続けた。質問をし出したら、きりがなくなりそうなので、明美の方も引き下がり話しに耳を傾ける……
 澪は一つ一つ、かいつまみながら説明を続けていった……二人の一族の事、バンパイアの事、テストの事、そして…チェンジの事を……
 その間、明美は呆然と話を聞くしかなく、話は優に2時間にも及んだ。晶は一度も起きることなく、荒かった呼吸も落ち着き可愛らしい寝顔で、ソファで眠っていた。
 澪が近くにいるのが解るのか、晶にとって何日かぶりの安らかな眠りだった。

 嫌な沈黙が続いていた。
 と言うよりも、言葉にならないと言うのが実際の所であった。
 全ての話を聞き終えた明美は、ソファで寝ている晶の顔を見つめ呆然としている。理解しようとはしているのだが、頭の中の整理が付かない、いきなり性別がチェンジしたと言われても、正常な頭の構造をしているので有れば理解できない。本来であれば性転換手術をしない限り不可能である事は小さな子供でも解る。
 しかし、目の前にその当事者達がいるのだから、例え頭が拒絶しようと理解しない訳には行かない。
 その葛藤が、頭の中で鬩ぎあっていた。苦悩は顔も歪ませていく、顔の至る場所が引きつって筋肉が痛くなってきた。
 苦虫を噛み潰したような顔をしている明美の目の前に、スッとティーカップが差し出された。
「あんまり、悩みすぎますと躰に悪いですから、紅茶でも飲んで一息ついて下さい」
 カップが差し出された方を振り向くと、一人の女性が微笑みながら明美を見つめていた。シンディである。
「……あっ……どうもすいません」
 突然の来訪者に驚く余裕もなく、明美は紅茶を受け取り薦められるがまま一口飲んだ。
「ちょっとまて、何でシンディがここにいるんだよ……」
 澪も話しに集中していて、シンディの存在に今の今まで気が付いていなかった。
「話しに夢中になるのも良いけど、もうちょっと気い付けた方がいいんじゃないの」
 声の方を振り返る。そこにはキッチンの前にあるイスに葛西が腰掛けていた。
「……なっ何で良太までいるんだよ。カギ掛かって無かったか」
「この私に鍵など役になどたたん! まぁ、始めはピッキングで開けたんだけど何かと便利そうだから、この間来た時、コピーしといたもんで、そのカギで入らせて貰いましたー」
 ほとんど犯罪行為である。この調子だと一体どれだけの仕掛けをこの部屋に施していったのか、澪には想像も出来なかった。
「お前ホント悪趣味だな……」
「こういう時には便利でしょ。話の腰を折られずに済んだんだから」
 事もなさげ言う葛西に明美が声をかける。それが先程テレビに映っていた男である事が確認できたので、取りあえず挨拶をと考えたのだ。
「……あの……葛西さん……取りあえず始めまして……」
「いや〜、先程はモニター越しで失礼しました。澪から多少は話が出ていたと思いますが、私が天才科学者の葛西良太です。あっこれ名刺」
 等と言いながら葛西はちゃっかり、明美の隣に腰を下ろす。
「良太なんだよ、その自己紹介のしかた……」
 いつもに増して『天才科学者』等と大げさに自己紹介をする葛西を怪しい者を見る目つきで睨む。
「いや〜、明美ちゃん俺の好みのタイプなもんだから、アピールしとこうかと思って……あっ、こっちは、私の助手ネ!」
「シンディです。よろしく」
 今までの、神妙な雰囲気とは打って変わって、軽いノリの葛西達に押され気味の明美であった。
 しかし、それがいいきっかけとなって、全てではないが今までの話が何となく整理でき、随分落ち着きを取り戻していた。
「……でも、性別が変わっちゃうなんて片桐さんや晶ちゃんが目の前に居なかった信じられませんよね……でも、晶ちゃんなんか始めから女の子っぽかったから、今の状況でも不思議じゃないと言えば、不思議じゃないんですよね……」
 晶の寝顔を見ていると本当に可愛く思える。そして愛おしい気持ちになる自分が居る事も自覚する。男の時よりも晶の事が気になる……そちらの世界に足を踏み入れそうな明美がそこにいた。
「……でも、晶ちゃんがこうしてチェンジしているッて事は……あの……片桐さんと……その……」
 頭の中は、数秒で色々な事が駆けめぐった。こうしてチェンジしているのだ。肌を重ねた事になる。想像は膨らむ……二人がSEXをしたとなると、『どちらが男役になるのだろう?』とか『こんな可愛い晶とHをするなんて、少しうらやましいかも』等、少しパニックした頭で色々考えてしまった。色々な感情が浮かんでは消えていく……その中には澪に対する嫉妬心も含まれていた。
 明美の態度を見ていれば、晶に好意を持っている事は誰にでも解る。ここで、話を複雑にしてもしょうがないので、フォローのつもりで口にした。
「心配しなくても大丈夫だ。最後まではやってない。ただ晶の精液を飲んだだけだから」
 こんな言い方では全くフォローになどなっていない。葛西すら唖然とするような事を平然とした顔で言っている。
 明美は真っ赤な顔をして口を押さえた。二人の映像がバッチリ頭に浮かんだのだ。
──あ……晶ちゃんの精液を飲んだ……
 チラチラと交互に二人を見て、想像を膨らませてしまう。晶の男根を澪が口にしている絵は、今の二人からは想像がつかない。頭の中では、女の子になった晶が澪の男根を加えている絵に変換されていた。
 頬を染めながら男根を舐める晶の悩ましい顔が、明美の躰を熱くしていく……
──ヤダ……顔が火照って来ちゃった……
 そう考えると躰の奥から快楽が湧き出し、意識が朦朧としてくる……人前でこんなになった事は一度もない。いやらしい事を考えたとしても、性欲が抑えきれなかった事など無かった。それなのに今は、どうしようもない程躰が熱くなていく。
──何……躰まで熱くなって来ちゃった……何で……濡れてるの……
 訳の解らない躰の火照りに戸惑いを隠せなかった。何故こんなに……それは、不完全ながらも光代の淫気を躰に受けてしまったせいだった。
 どうして、ここで目覚めたのか解らない。澪達が一緒に居たからかも知れない。恋する晶の事を考えたからかも知れない。しかし、一度目覚めた催眠効果は、泥沼のように躰にへばり付き引きはがす事が出来なかった。
「……明美どうした? 顔が赤いぞ……」
 明美の変化を察知した澪は声を掛ける。その表情は性欲を我慢できないでいる表情に間違いなかった。
「……やだっ……躰が……」
 手が自らの股間に落ちる。
「……あっ……だめ……」
「明美、何やってんだ……一体どうしたんだ」
 突然、股間を弄くり始める姿に、さしもの澪達も驚きを隠せなかった。
 確かに少しいやらしい話になっていた。しかし、そんな生々しい話をしていた訳ではない。言うなれば「精液を飲んだ」と言ったぐらいの物である。
 澪は、明美の腕を取りオナニーを止めさせる。
「どうしたんだ明美、いきなりこんなコトして……」
 明美の事を良く知らないが、決して人前でこんな事をする子だとは思えなかった。事実そんな女の子ではなかったし、どちらかと言えば性に対して奥手だった。
「……ダメッ……躰が……躰が熱いの……」
 明美の目は何かに操られるように、焦点が定まっていなかった。その瞳の奥が僅かに赤い光を放っているのが確認できた。
「……まさか、明美……」
 澪の頭の中にある考えが横切った……マリオネットがこんな所に……
「何処で、襲われたんだ! バンパイアは何処にいる!」
 まさかクラスメイトが襲われているなどと考えても見なかった。その悲痛な叫びは明美には届かずもの凄い力で、オナニーを続行しようとしている。
「止めろ。止めるんだ明美!」
 力で押さえつけるしかないのか……バンパイアを倒す手だては知っていてもマリオネットを救う術は知らない。それは、葛西達も同じだった。三人がかりで躰を押さえつけるしかなかった。何の解決にもならない事を知りながら……
「そこをどいて」
 突然背後から凛とした声が響く。
 その声に振り向くと、そこには晶が立っていた。
 さっきまで寝息を立てていた筈の晶が、今は瞳を金色に輝かせ立っている。
「滝沢さんは、バンパイアの淫気に当てられているだけ……完全に操られているわけじゃない。でも、このままにして置いたら、進んでバンパイアに身を捧げてしまう……」
「……お前……晶なのか……」
 今までと全く雰囲気の違う晶の姿に、一同あっけに取られ言葉を失った。
「大丈夫だからそこをどいて……ボクに任せて」
 晶も又何かに操られるように、三人を退かせ明美に近づく……晶の姿を捕らえると明美は狂ったように晶を押し倒した。
「晶ちゃん……変なの……したくてたまらないの……好き……晶ちゃんが好き……女の子になっても晶ちゃんが好きなの……」
 シャツに手を掛けると一気に引き裂き、小振りな胸が露わになる。慌てて澪が明美を引きはがそうとするが、それを晶が制した。
「手を出さないで! ボクは大丈夫だから」
 金色に輝く瞳が、澪の動きを止めた。
 唇が乳首を思いっきり吸った。晶の躰に気を失いそうになる程の快楽が突き刺さる……それを拒みもせずに、唇をかみしめて快楽に耐え続けた。
「……はあはあ……滝沢……さん……あうっ……ゴメンね……ボク達がちゃんと……学校に行ってれば……こんなに……ならなかったのに……」
 明美の頬を両手で包むとそのまま唇を重ねた……幸せそうな明美の顔が次の瞬間、苦痛に変わる。離そうとするが、唇が吸い付いて離すことが出来ない。唇を伝って明美に溜まっていた淫気が晶へと流れ込んでいく……
 ゴクリッ
 液体を飲み込む様に、大きく咽を上下した。その後、三回喉を鳴らして飲み込んだ。
 全てを飲み干し、唇を放した時には明美は気を失っていた。
「……ゴメンね。本当にゴメンね……」
 体勢を入れ替え、明美をソファーに寝かせた。その安らかな寝顔が、浄化出来た事を物語っていた。
「もうこれで大丈……夫……」
 力を使い果たした晶も、その場に崩れ落ちる。
「晶!」
 それを澪が受け止め、そして強く抱きしめた。
「……澪……」
 この厚い胸に抱かれることを何度夢見た事だろう。そっと腕を回すと持てる力全てを使い抱きしめ返した。
「……大丈夫か?」
「うん…大丈夫だよ……」
 躰には力が入っていないが、以外にも元気な声で答えた。
「良かった……」
 もう一度強く抱きしめると躰を支えイスに座らせた。澪は何時までも不思議そうな顔で晶を見つめていた。状況が全く掴めない。
「……晶、お前、今一体何をしたんだ?」
 これは、全員がそう思っていた質問だった。葛西にしてもシンディにしても晶の行動が、不可解でならない。
「……これが、ボクの能力みたい。バンパイアの淫気を察知する事が出来るのと取り除く事が出来る能力…………なんか、突然解ったんだ滝沢さんの中にあるバンパイアの淫気を感じた時に……」
 そうなのだ。異常なまでに敏感になった晶の躰は、バンパイアの淫気を感じるための物だったのだ。それが突然目覚めた……まだ、完全に力をコントロールは出来ていないが、
吸い取った淫気から、情報を読み取る事も出来た。
「それより、学校が大変な事になってる……今吸い取った淫気は……新任の保健の先生の淫気だ」
「えっ」
 驚くのも当然だ。こんな近くにバンパイアが居たとは……
 この時、澪・晶の血が大きく動き始めたのだった……

つづく(第四章 不安3)
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