Virus 第二章 〜追跡 3〜


 ベットルームに入るとそこは15畳程の部屋だった。その部屋の窓も壁一面に広がり、天井の一部がサンルーフになっていて、ベットから夜空が覗けれうようになっている。
 その広い部屋に、ダブルのウォーターベッドとサイドテーブルがあるだけで他には何も置かれていない。リビングといいベットルームといい、空間を贅沢に使っている家だ。
 月明かりを遮る事のない位にまで落とされた間接照明は、その部屋を神秘的な空間に演出している。どの部屋を見ても全体的に生活をしている匂いが殆どせず、まるで女の子を喜ばす為に用意された様だった。
「凄い部屋だね……星が綺麗に見える」
 サンルーフの上には、真っ暗な空の中に星が見えていた。住宅街の最上階であれば、街の明かりが星の輝きを邪魔する事はなく、東京でも結構星が見える。
「気に入ってくれた?」
「うん……」
 萌を抱きかかえたままの状態で、しばらくの間、星空を眺めていた。そして静かにベットに寝かせると少しベットから離れ萌を見つめる。真っ白な肌が薄暗い部屋に浮かび上がる。少女に妖艶さがプラスされた顔立ち、大きめの胸は恥ずかしそうに腕で隠され、引き締まった細いウエスト、女性の柔らかいラインを持ったヒップ、細すぎない脚、そこには美の女神ヴィーナスに愛された少女が横たわっていた。
「どうしたの……」
「こうやって、月明かりに照らされてる女の子の裸を見るのが好きでね」
「フフフ…おじさんみたい……」
「いいんだよ。男なんてみんなスケベなんだから」
 そう言いながら、服を脱ぐと引き締まった躰が露わになる。それは、月明かりに照らされダビデ像の様に美しくたくましかった。
「ステキね……」
「そりゃもう。女の子を喜ばせるために鍛えてるだけだけどね」
 そう言いながら、ゆっくりとベットに乗り覆い被さる。萌はジッと学の動きを見つめていた。
 視線が絡み合う。どちらともなく求め唇が重なる。
 長い長いキス……学のキスは高校生の青臭いキスではない。今までに何度も唇を重ねたであろう大人のキスだった。
──あああ……き…気持ちいい……キスだけなのに、こんなに気持ちいいなんて……
 体温が徐々に上昇していくのが学の躰に伝わってくる。始めはされるがままになっていた萌だったが、躰が火照って行くのと比例し、自分から唇を求めていった。
 学の躰を思いっ切り抱きしめた……AIの思考とは関係なく躰が勝手に動いてしまう。
「はあぁぁ……」
 光る糸を残しながら唇が離れる。頬を赤く染めた萌の顔は、どんどん欲情の色が濃くなっていく、キスだけでこれだけ気持ちを盛り上げてしまうとは、これもホストで鍛えた技の一つなのだろうか。
 その欲情で潤んだ瞳を覗き込みながら、学は優しく微笑みを浮かべた。
「……な…に……」
 冷静な学に比べ躰を火照らせている自分が少し恥ずかしい。
「綺麗だよ」
 単純な言葉だ。何のボキャブラティもなく、強いて言えば臭いセリフになりかねないのに、学が言うとこれ程、心の奥底に響いていくとは。「綺麗だよ」と言う言葉に、自分の躰ではないAIまでもが、嬉しくなってしまう。
「……そん…な……」
 嬉しさと恥ずかしさとが交錯し、学と視線を合わせていられなくなる。
──どうしちゃったの……冷静に……もっと冷静にならなくちゃ……
 視線を外すため顔を横に背けると無防備になった耳に学の唇が重ねられた。
「あっ……」
 耳から強い快楽が差し入れられる。唇は何の遠慮もなく耳たぶを吸い込み、軽く噛む。
 躰に快楽を注入する学の唇は、軽くキスをしながら首筋に落ち、鎖骨を舐め上げ肩へ……脇を通って胸の膨らみへと降りていく。
「あああぁぁぁぁ……」
 今まででは考えられない所が性感帯へと変化する。魔法の唇が、知りもしなかった性感帯の扉を一つ一つ丁寧にこじ開けていった。唇が胸の裾のに到達する頃には、萌の躰には吹き出た汗が珠になって流れ落ちていった。
「だめぇぇぇ」
 否定ではない拒否の言葉が洩れてしまう。唇はその言葉を無視するように胸の頂上へと舌を這わした。
 快楽が隅々まで染み渡っていく……快楽が染み渡る程、躰からは力が抜け秘裂を熱くさせた。
 肌を合わせる相手が違うだけでこれ程までに、快楽の感じ方が違うものなのだろうか? 自慰よりも加代よりも強い快楽がAIの思考を奪っていった。
──だめぇ……で…でも……もっと…して欲しい……
 太股やお腹を学の手が撫で回す。その柔らかいタッチが唇と連動して、より一層躰を疼かせる。しかもその全てが一番触れて欲しいところを避けていた。
「……あああぁぁ……意地悪しないで…お願い…」
 そんな願いも空しく、学は思うように愛撫をしてくれない。じれた萌は自らの手を股間へと伸ばした。僅かにパンティーの上から秘裂が有る部分に触れる。そこは秘裂から溢れ出した愛液を吸って重くなっていた。
──こんなに…濡れている……
 濡れやすい萌ではあったが、これ程濡らすには、かなりの時間を掛けて秘裂に愛撫を続けなくてはならなかった。しかし、今はまだ一度も触れられていない。触れられていないのに、秘裂からはどんどん愛液が流れ出し、小さな突起はジンジンと刺激を与えられるのを待っている。
──今触ったらどんなに気持ちいいだろう……
 欲望に負け、指に力を入れようとした瞬間、思いは腕ごと引き剥がされた。
「いや〜ん……だめぇぇぇ……」
「だめじゃないの、せっかく二人いるんだから、自分でやろうなんて考えちゃだめでしょ、女の子同士でやるより気持ちいい事してあげるからね」
 今のままでも十分に加代との交わりより気持ちがいい。だからといって加代が嫌いになったわけではない。加代と萌は肉体もそうだが精神的にも繋がり、安らぎを求め合い満たしていた。今はただ、肉体的快楽が強いだけだ。
 腕から手を離し、学はパンティーの上から、優しく秘裂に触れた。
「あああぁぁぁ……」
 想像していた以上の快楽が全身に広がる。特別な事をしたわけではない。学の指が秘裂に沿って一撫でしただけだ。
──ああああ……なにこれ…してくれる人によって……こんなにも……違う物なの……
 秘裂が別の生き物のようにヒクヒクと動き、より一層愛液をはき出す。シミの広がったパンティーは秘裂の形をハッキリと浮き出していた。
 学の鼻孔を萌の甘い香りが刺激する。濡れたパンティーをゆっくりと引き下ろし、萌の秘裂を直視する。そこには茂みのない可愛らしい秘裂がうっすらと口を開け、小さな珠がピクピクと痙攣していた。
「恥ずかしい……」
「そんな事無い。可愛いよ」
「だって……毛がないから……」
「恥ずかしがる事なんて無い。俺、好きだなこう言うの……」
 学の右手は、毛が生えている筈の場所を優しく撫でた。そしてゆっくりとその指は下へと伸びていく。
 指先が小さな珠に触れた……
「ああああっっ……」
 萌の躰が大きく跳ね上がる。敏感に膨れあがった小さな珠は、僅かに触れられただけでも、電気が脳天まで突き抜けるような感覚を与えていた。
「す…すごい……すごい感じるの……」
 指は小さな珠を回すように愛撫を続ける。それに会わせ萌の躰は、痙攣をおこしたようにピクつく。
「そ…な……だ…めぇ……」
 気持ちよすぎて言葉にならない。
 輝く珠に刺激を与えていた指は僅かに場所を変え秘裂へと向かう。少しの間、口を開けた秘裂を撫で回すと人差し指と中指を差し入れた。
 充分に濡れた秘裂は指を拒むことなく受け入れてしまう。
「はあぁぁぁ……」
 深く根元まで差し入れられた指でゆっくりと膣壁を擦り上げるようにして動かしていく。今までとは違う刺激が秘裂から伝わってくる。下肢に何かが溜まるような感覚、それは擦り上げられるほどに膨らみ今にも弾けてしまいそうだった。
 徐々に腕の動きが早まっていく。
「だめぇぇ……」
 指の隙間から愛液とは違う雫が吹き出され、シーツにシミを付ける。
「出ちゃう……出てるの……もっと…もっといっぱい……出る…出ちゃうぅぅ……」
 叫びに近い萌の喘ぎ声が部屋に響く、雫が吹き出るのが終わっても学の指は止まらなかった。そして今まで避けていた乳首を吸い。刺激を強めていく。
「だめぇぇ……そんなにしたら……ああぁぁ……だめぇ…また…いくぅ……」
 萌は涙を流しながら喜びを感じている。下肢が痙攣すると再び秘裂から美しい雫が吹き上げられた。
 何と感じやすい躰なのか、二度の絶頂に躰は桜色にそまり、美しさを増していく。
「感じやすいんだね…そうゆう娘、好きだな」
 そう言うとまた指を動かし始めた。それは、先程とは違いゆっくりとした動きだった。
「あっ…だめぇ…そこは…だめぇ……気持よすぎる……変になっちゃう……」
 俗に言うGスポットと呼ばれる部分を初めて刺激された。何という快楽なのか、膣内の刺激の仕方で快楽の伝わり方がまるで違う。思考が停止してしまうのでは無いかと思うくらいの快楽が全身を欠け巡っている。
 学も若いのに、何と言う濃厚な前戯を行うのだろう。風俗関係に働いている事から、女性経験は豊富であった。しかも、ナンバーワンホストとなれば、口説かなくても「抱かれたい」と思う女は星の数ほどいる。
 それだけ豊富な女性経験でも、萌ほど感じる女はいなかった。学のテクニックも逸品であったのも間違いない。しかし、それ以上に萌の躰が敏感にできていたのだ。しかも、貪欲にその快楽を求めてくる。普通の女だったら、これだけ立て続けに絶頂を向かえれば、多少疲れの色を見せるのだが、萌は一向にそれが見えない。それどころか口では否定しているが、腰を使い指の動きをサポートしている。
 何とも楽しみがいの有る女だ。元来、学は自分が感じるのも当然だが、女の子が喜んでいる姿を見ているのが好きだった。女の子の肌に触れ、女の子の喘いでる姿を見れば、自分は逝かなくても大丈夫であった。実際SEXをしても、逝かないで終わった事もしばしばある。
 その中で、最高の反応を見せる萌は、学にとって最高の女とも言えた。いや、男にとって理想なのかも知れない。
 秘裂への愛撫を何十分と続けられ、何度となく萌は絶頂を向かえた。更に敏感になった躰は、胸を愛撫されただけでも絶頂を向かえるようになっていた。
 この濃厚な前戯を学は一時間ちょっと続けていた。
「お願い……欲しいの…頂戴……くれないと可笑しくなっちゃう……」
 何度と無く求めたが、学はその反応も面白がって、なかなか自分のモノを与えようとはしない。
「いやぁー……頂戴」
 萌は、あらん限りの力を振り絞って、学に抱きついた。それでも学にとっては、ゆるい抵抗だったのだが、抱きついてきた萌に、躰を預けたのだった。
「しょうがないなぁ『ください』ってお願いしたらあげるよ」
 S的要素を持ち合わせているのだろう。ここまで引っ張っておいて抵抗できる女はいない。萌は素直にそれに従った。
「お願いします…ください…」
「何をして欲しいの?」
「…あなたのモノを……萌にください……萌のあそこに……」
 学は躰をずらし、萌の脚を広げ腰を中に滑り込ませた。自分の男根を握り、秘裂に宛いその縁に沿ってなぞっていく。
 タップリと濡れた液が、男根にこびり付いてくる。
「……ああっ……いじわる…いじわるしないで……お願い早く……」
 その願いにも応えず、学はまだ焦らしている。萌も腰を動かし自分から挿入しようとするが、主導権は学が握っている為、上手く挿入できる訳がない。
 クチュクチュといやらしい音を聞きながら、ゆっくりと腰を前進させる。秘裂は何の抵抗もなく学のモノを根本まで飲み込んでいった。
「はあぁぁぁ……いくぅぅぅ……」
 挿入されただけで、萌の秘裂は悲鳴を上げた。日本の平均よりかなり大きめの男根の隙間から、勢いよく雫が噴き出す。
「いいの……気持ちいいの……ねぇ…沖田君も気持ちよくなって…萌の躰で…気持ちよくなって……」
 萌の秘裂は、引き締まった躰と等しく充分な膣圧で締め付けてくる。その上、膣壁がザラついている。俗に言う「数の子天井」と言われる物だ。滅多に出会えない名器と呼ばれる物に、学は驚きを隠せなかった。
 数多くの女性経験でも名器と呼ばれる物に一度も出合った事がなかい。萌は、可愛らしい喘ぎ声、感じやすい躰、性器に至まで男を喜ばせる物全てを兼ね備えている。
 腰を動かすとザラつくヌメヌメ感が、何とも言えず気持ちがいい。女性慣れしていた学ではあったが、経験した事の無い快楽が、ある程度自分でコントロール出来る筈の射精を僅か数分の内で、発射寸前までの所まで導かれていた。
 押し寄せる波を何度と無くこらえ萌の躰を楽しむ。危なかったのは、萌を上に乗せたときだった。ある程度自分の自由になるのを良いことに、激しく腰をグラインドさせてきた。その間何度と無く萌は絶頂を向かえ、後数秒萌の力が尽きるのが遅かったら、自分の意志に関係なく果てていただろう。
 力の抜けた萌の躰を抱えお互いに座るような体位を取る。腕の力と腰の反動を使い、萌の躰を揺さぶる。その攻めに、萌も直ぐに反応した。
「はあぁぁ……いいぃ…これ…も…いい……もっ…と、もっと……早く……」
 秘裂から吹き出される雫が、愛液でぬめる太股を洗い流す。何度と無く向かえる絶頂にも萌は尽きることなく快楽を求めてくる。半ば学も翻弄気味だった。
「何時もこんなにすごいの?」
 女にこんな事を聞いたのは初めてだった。それ程、萌の性欲は凄かった。
「……はあぁ…い…つも……じゃ…ない……だって…気持ちいいの……嫌い…こんな…いやらしい…女は……」
「そんなことありません。むしろ大好きだよ。普通だと女の子の方が参っちゃうからね。今日は実に楽しいやりがいのあるSEXだよ」
「……あぅっ…うれ……しい……」
 我慢は出来るが、自分でコントロール出来ないほどのSEXは初めてだった。学は男を喜ばせる全てを持ち合わせた萌の躰を楽しんでいた。
 秘裂から抜かずに体勢を変え、一番最初の体勢に戻った。フィニッシュは正常位でと決めている。これをすると何かと女の子に喜ばれるせいもある。
 しばし動かず真っ直ぐに見つめる。そこには、頬を赤く染めた天使のような笑顔を作る萌がいた。
「どう…したの?」
「いや、こんな可愛い子が女の子同士でもったいないなぁ〜と思ってね」
「……ばか」
 恥ずかしがる仕草がまた可愛らしい。その可愛らしい仕草をゆっくり崩すように腰を動かしていく。その大きなストロークが、躰をとろけさせる。
 快楽は学も一緒だった。我慢し続けていたがそれも限界に近づいていた。
「うっ……逝きそうだ……」
「いいよ……逝って…萌の躰が気持ちいいんでしょ……うれしいよ…逝って……お願い…出して……」
 この反応が又たまらない。可愛らしい事を言ってくれる。しかし、今はコンドームを付けていない。こんな時でも、頭の片隅でその様な事を考える学であった。意外と冷静である。
「出して……私の中に……中に出して……」
「そりゃマズいでしょ…ゴム付けてないし」
「……アン…いいの……今日は大丈夫だから……お願い……中にだして……」
 萌の両足はしっかりと組まれ、学の腰を離そうとはしなかった。しかも、激しく腰を振ってくる。
「いく……また…いく……一緒に…一緒にいこう……いく……いくぅぅぅぅ……」
 学の腰の動きが止まり、萌は躰を大きく痙攣させる。
 二人は同時に絶頂を向かえたのだった。時が止まった……学の躰が崩れ落ちそれを萌は優しく抱きしめた。
 二人は大きく肩で息をしてる。至福の時間……
 萌の快楽に潤んだ瞳の奥が妖しい光を放つ……
 唇に微笑みをうかべた時、学は突然頭を抱え跳ね起きた。苦しみに満ちた叫び声をあげながら……
「グワアアア……きっ貴様……一体俺に何をした……」
 萌は苦しむ学を冷たく見つめている。その表情からは快楽の色が取り除かれていた。
「掛かったわね〈トロイ〉! 気が付かなかったみたいだけど、私はウイルスバスターのAI。あなたを追って、この世界に派遣されたハンターよ」
 学の美しい顔から、血の気が引いていく。その瞳には、困惑の色が濃くなっていった。
「……なに言ってんだ……お前……お前は、何者なんだよ……」
「往生際が悪いわよ。あなたに打ち込んだワクチンは最新の物。いくらあなたでも抵抗するだけ無駄」
 AIは、学の射精と同時に解放された管からワクチンを進入させたのだ。ワクチンを打ち込むのには、人間の理性が奪われた時が最も効率よく進入させる事が出来る。真正面から戦って相手を倒し、口や肛門、女で有れば秘裂からワクチンを進入させる方法。そしてもう一つは、気付かれずに対象物と交わり、絶頂を向かえた時にワクチンを進入させる方法の二つだ。AIは後者の方法を取りワクチンを進入させたのだった。
「……ワクチンって何なんだよっ…訳わかんねえ事…言ってんじゃねぇ…」
 この期に及んでも、学の中に進入している〈トロイ〉の意識が表れてこない。
「騙そうとしても一度進入したワクチンは止まらないわよ」
「…クッソォォォ…なんだこの頭の中で…チョロチョロ騒いでる奴は…」
 まさか……AIの中で疑問が湧いた。学の中に本当に〈トロイ〉はいないのか? そんな筈はない。あの人間離れした動き。快楽に貪欲な性格。そして今も動いているコンピュータが何よりの証拠だ。間違いなく学の中に〈トロイ〉は住んでいる…筈だ…しかし、これだけ苦しんでいるにも関わらず〈トロイ〉が出てこない。どんなに強力なウィルスでも新しいワクチンに対抗できるわけがない。必ず姿を現し救いを求めてくる。サイバーワールドで何よりも恐ろしいことは1バイトも残さずデリートされることなのだから。
 なのに何故……違うのか、学は何者にも犯されていなかったのか……
「……質問に答えなさい。あなたは誰」
「ふざけた事言ってるんじゃねぇ……知ってて俺に会いに来たんじゃねぇのか……」
「答えなさい。あなたの名前は」
 切羽詰まった声を上げ。萌は必死に苦しむ学に問いかけた。ベットの上でのたうち回る学の躰からは大量の汗が噴き出していた。
「……沖田学に……決まってるだろ……」
「……そんな……」
 しくじった……学は、何者にも犯されていない。その生身の人間にワクチンを打ち込んでしまった。ウイルスが侵入しているのであれば人体には何の影響も無いワクチンでも、ウイルスが侵入していない人体に打ち込んだ場合、その人の精神を破壊してしまう。しかも実行したプログラムは止める事は出来ない。
「くそぉぉ……」
 暴れていた学の躰が力を失い、静かに崩れ落ちた。ワクチンプログラムが停止したのだろう……激しく肩で息をしているが、脳は破壊され廃人になってしまっている。
「……」
 AIは呆然と学を見つめていた。
──……とんでもない事をしてしまった……取り返しの着かない事を……
 プログラムによって破壊された脳は、復活させる事は難しい。例え復活できたとしても元の人格には戻らない。その様な間違いを犯さない為に、サイバーワールドで厳しい訓練を積んできたのではなかったのか……これでは、ウイルスと変わりはないではないか……何故もっと落ち着いて行動をしなかったのか。AIは、後悔の念で押し潰されそうになっていた。確かに焦っていたかも知れない。初めての世界に浮き足立っていたのかも知れない。もしくは自分の力を過信していたのかも知れない。全をもっと慎重に運んでいればこんな事にはならなかった……
 涙が頬をつたう……
「何故……何故あなたは〈トロイ〉ではなかったの……」
 不条理な願いを呟いてしまう。AIは、学の胸へ泣き崩れていった。
 初めて悲しみの意味を知った。サイバーワールドでは、壊れてしまったデータを100%元に戻すことも簡単に出来る。許容量があれば優れたデータに変える事も出来る。しかし、0と1だけでは表せない人間は、一度失うともう二度と元に戻す事は出来ない。
 二度と元に戻せない…永遠の別れ…その悲しみをAIは始めて認識していた。
 人が泣くことを理解できなかったAIが、初めて心の底から泣いた。萌の躰はAIに人間の心を教えてくれたのだった。
 頭を撫でるように手が置かれた。
 学の躰が悲しみを感じて慰めてくれているのか、これが人間の優しさなのだろうか。しかし、その手にはどことなく力強さが感じられた。
「ちくしょう……死ぬかと思ったぜ…」
 AIは驚いて、学の顔を見た。その顔は、疲労の色が濃く、まだ何処かが痛むだろう。綺麗な顔を歪ませていた。
「……まさか…そんなはずない。無事だなんて……」
「無事じゃ悪いか」
 痛みに顔を歪めながらも悪態をついてくる。計算しきれない人間の生命力の強さにAIの思考は暴走寸前だった。
「本当に大丈夫なの?」
 ワクチンは完全に打ち込まれていた。それなのに何故? その答えがAIには見つからない。
「ああ……何とかな……『武術は肉体の修行あらず。精神の鍛錬こそが大事』って言ってた…じっちゃんに感謝だな」
 学は、肉体訓練の他に毎日座禅を組み、精神修練も欠かさないでいた。
「でも……どうして……ワクチンは……」
「ああ、頭の中でチョロチョロしてた奴な。倒すのに苦労したよ……って言うより。AIの世界で言えば、インカムしたって言えば解りやすいのかな」
 驚きの顔を隠せなかった。インカム、取り込むとは一体どういう事なのか。
「私達の世界……インカムって……」
「有る程度解ったよ。君が何処から来たのかね。頭の中に入ってきたデータだけじゃ全部は解らないけど、この世界の他に別の世界が有るって事だけは解った」
 学の話はこうだった。ワクチンが躰の中に進入し、学の脳内に有るデータバンクを破壊しようとした時、普通の人間では考えられない精神力の強さでプログラムを撃退し、それどころか、それら全てを自分のデータとして取り込んでしまったと言うのだ。それによって、サイバーワールドが有る事を把握し、萌の中に別の生物であるAIがいる事が認識出来たのだ。
 学は、ワクチンプログラムとの融合を果たしていたのだった。それは学自身がワクチンプログラムになったと言っても良いかも知れない。
「……ゴメンナサイ……私…あなたにこんなひどい事してしまって……」
「ホントだよ、危うく死ぬところだったんだぞ…でも、まあいいや、それで得た情報は大きかったからな。でも一つだけ俺の言う事を聞け」
 AIには、断る事が出来なかった。命を危険にさらした事には変わりはないのだ。生きている方が奇跡と言ってもいい。
「…解ったわ…何でも言って」
「そっちの世界の情報を全部よこせ。俺が手伝ってやる」
 思いがけない申し出だった。生身の人間ならウイルスを倒す事など出来る筈はない。それどころか、サイバーワールドと接触しても、その膨大なデータ量を吸収出来る訳がない。しかし、今の学は幸か不幸か、ワクチンプログラムと融合した事により、脳をコンピュータのハードディスクの様に使用できるのに加え、その検索能力も身につけているようだ。人間とコンピュータの融合とでも言えばいいのだろう、学は人間もコンピュータも越えた存在になっていた。
「AIのリュックの中にあるコンピュータが、ゲートになっているんだろう。今日は取りあえず、そのゲートから向こうの世界に入ればいい。それから俺のコンピュータにもゲートを開けさせてもらう」
 どのコンピュータからでもサイバーワールドに進入出来るわけではない。向こう側がゲートを開かなければ中には入れないのだ。そのセキュリティが人間界からサイバーワールドを見えないようにしている。
 元々コンピュータに精通していた学ではあったが、今まではコンピュータを使うという感覚であったが、これからはコンピュータに繋がり、出入りする事が出来るのだ。
 二人はベットルームを出て、リビングへと向かった。裸のまま移動する美男美女はまるで禁断の果実を手にしたアダムとイブのようであった。いや本当に、そうであったのかも知れない。新たな世界に踏み出したアダムとイブ、エデンの園を追い出されたのではなく、二人は自らの脚で踏み出していったのだった。
 AIは、リュックの中のパソコンと二本のプラグを取り出した。
「女用のプラグは作ったんだけど…目標が男と解ったから男用のプラグは作ってないの」
 学は、そんな事もお構いなしにパソコンを立ち上げる。そして、二本のプラグをUSBに取り付け、一本をAIに渡した。
「案内頼むよ」
「でもこれじゃ、あなたは向こうの世界に入れない」
「大丈夫だ。このままで入れる」
 学はプラグを握っていた。AIはサイバーワールドに接触するには、プラグを挿入して接触をはからなくてはならない。これは、人間の粘液が丁度よい潤滑油になり、接触しやすくなる為だった。その為、進入は男より女の方が向いている。
 しかし、学は握っているだけでサイバーワールドに出入り出来ると言うのか? これが二つの世界を融合した結果なのか。
「一人じゃ、プラグ入れるの大変だろうから手伝ってやるよ」
 そう言うと、学は萌をソファーに寝かせ、開かせた股の中心へ顔を埋めた。
 秘裂に舌を這わせるとそこからは、見る見る甘い愛液が沸き上がってきた。逝かす事が目的ではないので、濡れたのを確認するとプラグを秘裂へと押し込んだ。
「はああぁ…」
 萌の喘ぎ声が上がる。それも気にせず学はパソコンにパスワードを打ち込んでいく。
「それじゃ行きますか…よろしく頼むよ」
 プラグを握り直し、リターンキーを押した。目をつぶった学の視界にまばゆい光が広がっていく。そこには、今まで見た事のない別の世界が広がっていた。
 光溢れる世界…サイバーワールドに、二人は進入していったのだった……

つづく(第三章 浸食1)
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